成長はいつまでも「FALSTAFF」

【2017-06-10】
スカステ視聴記録

シェイクスピア作品における有名な脇役にしてアンチヒーロー・フォルスタッフが主役という、目のつけどころがとっても面白い作品スカステ録画観賞。

フォルスタッフがモデルなのであろう登場人物が出てくる映画なら見たことあるので、なんとなく人物像のイメージは持っているのだけれど、シェイクスピア作品自体はほとんど知りません。

「ヘンリー4世」だったっけ?昔、読みかけて結局挫折した記憶が…。

私が見た映画でも大酒飲みで悪党なれど、抜けたところがあって憎めない巨漢。そして若き王子の悪しき師として共に放蕩をかさねるという役どころだったかな。

ちなみにその映画はガス・ヴァン・サント監督の「マイ・プライベート・アイダホ」。

王子にあたる若者役は若くて美しいキアヌ・リーブスでした。

やがて若者はフォルスタッフやその仲間(リバー・フェニックスの繊細な演技に心震えました。)を捨て、輝くような一人前の男となって高貴な人々の世界に帰っていきます。

そう、フォルスタッフは人気キャラだけれど本来は主役ではなく、若者を一人前に成長させるための(本人はそんなつもりは一切ないのだけれど)こう言ってはみもふたもないけれど踏み台となる男。

この芝居でも王子のありちゃん(暁千星)が出てきて、いきなりフォルスタッフを捨て去ります。

しかし、物語はどうやらここから始まるよう。

フォルスタッフはイングランドを離れ、イタリアのヴェローナに流れ着き、そこで、再び未完成の若者ロミオ(暁千星が二役を演じる)と巡り会い、「ロミオとジュリエット」の物語をぐちゃぐちゃに引っ掻き回しながら、結局は未熟な若者の成長を引き出していきます。

つまり、物語としての本来の主役は王子とロミオを演じたありちゃん。

随分と頬のラインがスッキリして男ぶりがあがっていました。

もともと身体能力は高く、歌声もいい素質を持っている人だけれども、今ひとつ芝居にも男役としてのセンスにもどこか物足りなさを感じるありちゃん。

ここでシェイクスピアのセリフに挑戦させることで、どんどん成長を促して行きたいところなのね~。

過去にバウでロミオを演じた人といえば、大地真央、峰さを理、天海祐希、水夏希。

もちろんこの時はまだトップではなく若手時代。

(フレンチミュージカルのロミジュリ日本初演の柚希礼音はバウじゃないし除きます。)

バウで若手時代にロミオを演じさせるということは、ものすごい期待の星であり、より良い成長の機会を与えたい!ということなのです。

とはいえ、今の時点でもし、ありちゃんが普通に「ロミオとジュリエット」を演じたとしたら、やっぱりまだ一人前のプロの舞台人としては足りないところがたくさん出てくるでしょう。女子校の文化祭なんて言われる可能性も…。

というわけで、ここは、というか、こここそがフォルスタッフの出番!という事情だったのかなぁ~~~。

そんな内部事情(あくまで想像)はさておき、

フォルスタッフのマギー(星条海斗)素晴らしかった!!

ものすんごい圧力。

これほどの圧力を持ったタカラジェンヌは思いつきません。

う~~ん。チャルさん(箙かおる)とハマコ(未来優希)くらいかな。ひぃぃぃ~~~怖い~。

でも、マギーの他に類を見ないところは、その圧力の中になんともいえない楽しさと華やかさが含まれているところ。

破天荒でヘナチョコで、それがとってもチャーミングなので、あれだけしたい放題、言いたい放題引っ掻き回したとしても全く嫌味がなくって、物語がぐんぐん楽しく進んでいく。

他の登場人物では、毎度のことながらトシちゃん(宇月颯)の黒い切れ味とれんこんさん(蓮つかさ)の芝居の上手さにうなりました。

この二人はティボルトとマーキューシオで「ロミオとジュリエット」そのままの悲劇的結末を完璧に演じます。

それはそれでとても良かったのだけれど、異分子フォルスタッフが紛れ込んだことで、また別の結末を迎えるという話の流れでにしても良かったんじゃないかなぁ。

ちょっとそこはしっくりしないところではありました。

まぁそんなことも忘れさせてくれるほど、二人の演技は素晴らしかったし、マギーフォルスタッフの圧倒的存在感ではあったのだけれど。

そして、さらに感心したのが千秋楽のご挨拶。

「なんでこんなに出来ないんだろう。こんな学年なのに。」

そうなんだ~。決して器用なタイプではなかったのね。

私がマギーに気がついたのは宝塚観劇を再開したばかりの「バラの国の王子」の意地悪姉さん役だったから、それ以前のマギーは知らないのだけれど、どんな風に下級生から若手・中堅時代を過ごしたのだろう。

これだけの華やかさと圧力を持っていながら脇にいる場合、ともすれば演技がうるさくなってしまいがちだし、かといってハマコのようになんでも出来るタイプでもなさそうだし、色々大変な時もあっただろうなぁ。

それを乗り越えてのバウ初主演。

自分同様不器用なところのある若手の成長をも助けながら楽しい舞台を作り上げ、ほんとに立派でした。

これはフォルスタッフを演じたマギー自身の成長物語でもあったのかもしれません。

ちゃんとあなたが主役でした!!

次は花組公演でお会い出来るのね。楽しみだわ。

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