スカステ視聴記録
せおっち(瀬央ゆりあ)とくらっち(有沙瞳)のポスターが美しくてとっても気になっていた音楽奇譚「龍の宮物語」をスカステ録画観賞。
あー、これを生で見ることができたならどんなに素晴らしかっただろう。
もちろんテレビ鑑賞でも十分素晴らしい舞台でした。
でも演者と同じ空間でバウなら500人、大劇場なら2000人超、共に固唾を呑んで芝居を見つめるというのはやはり何物にも替えがたい特別な体験なんだと逆に思い知らされた気がします。
もしもこれをバウホールで観ることができたなら…。
水底にどっぷりと沈み込むような感覚にもっともっと包まれだろうなぁ。
そんな風に芝居に没入できる大切な時間と場所はいったいいつになれば取り戻せるのでしょうか。
作・演出♪指田珠子先生
これがデビュー作です。
舞台奥の土手の道を狐の嫁入りのように異形の者たちが静かに行列していく冒頭から心をギュッと掴まれました。
雨にけぶっているのでしょうか?背景にぼんやりと浮かぶ大きな月が印象的。
間奏に女性の哀切な声のようなヴァイオリンの調べ加わりこれから始まる物語の悲劇性を予感させます。
この「龍の宮物語」は日照りの生贄として龍神に捧げられ人間に怨みを抱いたまま龍に変化した女性と彼女を見捨てた恋人の子孫である明治の青年との因縁話。
それを演じるのはのは、せおっち、くらっち、そしてみっきー。
この3人といえば「ドクトル・ジバゴ」で凄まじい情念を見せた演技巧者たちです。
情感豊かなこの3人がそんな物語を演じれば情念渦巻くドロドロ芝居になってもおかしくはないはずです。
でも、なんと言うんだろう、もちろん深い情念が描かれてはいるのですが、そこから受ける印象は意外にも清らかな水の如くさらさらとしていてとても美しい。
この繊細でみずみずしい感性は指田先生によるものなのかしら?
しかも物語に仕掛けられた伏線の見事さにも舌を巻きます。
(ここから盛大にネタバレなのでまだご覧になってない方ご注意下さいね。)
書生の山彦♪ぴーすけ(天華えま)
山彦は(あ~~!山彦っていう名前だったんだ!)なぜ夜叉ヶ池にまつわる因縁を知っていたのか。なぜ清彦のせおっちを守ろうとしたのか。
その真相に気づいた時、背中がビリビリ感電したみたいでした。
夜叉ヶ池の水の底で過ごした一日は地上では何年になるのでしょう。
山彦が地上に逃げ戻った時にはすでに自分の孫の年代となるほどの年月が過ぎてしまっていたのですね。
今度は清彦のほうが30年の時を経て夜叉ヶ池から地上に戻り、再び出会った山彦から池にまつわる因縁を聞くことになります。
しかし山彦はその時すでに大正12年の関東大震災で亡くなっていた事が明かされます。
この幾重にも張り巡らされた仕掛けには息をのみました。
親友として清彦を見守ることが何十年もの時を失ってしまった山彦の唯一の心のよりどころだったのかもしれません。
清彦が再び夜叉ヶ池に向かうのを涙を流しながら見送る山彦。
ぴーすけの泣き顔が優しくて。
その時をも命をも超えた深い愛に私も静かに涙が流れました。
龍神の妻、玉姫♪くらっち(有沙瞳)
美しかったーーー!
水の中で少しもつれ絡み合ったかのようにうねる長く美しい巻髪、切れ長に描いたアイメイクがとても似合っていました。
凛と硬質な台詞回しが明瞭で、人ならざる異世界の住人である事を上手く表現しています。
そしてやっぱり芝居が自在なんだなぁ。
ほとんど笑顔がなく何を考えているのかなかなか表に出てこないのですが彼女の揺れる心と苦しみがちゃんと伝わってくる。
言っていることと本心が違うというのは本当に表現が難しいと思うの。
現にゆりちゃん(水乃ゆり)の令嬢百合子はその辺りがまだまだ実力不足で、うちに秘めた淡い恋心が表現出来ないためにちょっとした不思議ちゃんになっちゃってましたね。
あかっしー(朱紫令真)がヴァイオリンを聴きながら語る言葉でようやく彼女の本心がどこにあったのかが理解できた。
明治の名家の令嬢は親の決めた人と結婚するのが当たり前で身分の違う男性と自由恋愛など考えることも出来ないけれど心の奥底には清彦に対するほのかな想いがある。
彼女の明るさの裏に隠された切なさが表現出来ていればこの物語の重層構造がさらに際立ったはずなのですが…。
龍神♪みっきー
もう素晴らしいの一語に尽きる。
声が艶やかでまるで美しい楽器の音色のよう。
抑えた台詞回しの中にも深い執着がほの見える。でもそれが決して粘着質でいやらしい感じにならないんだよね。
恐ろしくて最後には哀れで、それでもやっぱり美しい。
この絶妙なサジ加減がみっきーのすごいところ。
水底の異形の者たち
黒山椒道のまいける(大輝真琴)の指が両生類っぽいのがじわじわツボる。
ヤゴ郎、ゲンゴロウの水生昆虫コンビひらちゃん(蒼舞咲歩)、マッキー(夕陽真輝)がお気楽でいい味。
りらちゃん(紫りら)の裏表の表情の変化が巧み。女のほうが怖いね。
物言いたげに眉間にしわ寄せ口をとんがらせたあまねちゃん(澄華あまね)が激カワイイ。
人間チームでは相変わらずあまじぃ(天路そら)がさりげな〜く上手いわぁ。もえか(鳳真斗愛)の芝居もいいね。そしてそして清彦♪せおっち(瀬央ゆりあ)
目力が強く男っぽいイメージのせおっちがこんなにも淡い役を創り上げるとは!
一見どこか脆くてほろほろと砕け散ってしまいそうな透明感。
しかし終盤には自分の命を投げ出さんとするほど愛しい人への強い想いを秘めている
前半の頼りなげな文学青年の佇まいも、地上に戻った時の魂を奪われたような虚な瞳も、再び玉姫と対峙した時に見せた熱情も、どの演技も本当に素晴らしかったけれどラストの玉匣(たまくしげ)を開けたシーンが見事で特に心に強く残りました。
「会いたくば開けるな」そう言われて玉姫から渡された玉匣。
しかし玉姫は死に玉匣だけが残される。
悲しみの中で箱を開けても何も起こらないのよ!
玉姫の清らかな声とともにただ雨が静かに降るだけなのよ!
「愛しいあなたよ。私のことは忘れてください。」
その雨は水底に沈められた玉姫の千年も続いた苦しみ故の雨だったのでしょうか。
それとも清彦によって魂が鎮められた故の雨だったのでしょうか。
せおっちの頬が濡れているのは雨なのか涙なのか。
濡れたせおっちの美しいこと!
全てが儚く消え去りただ一人残された清彦の切ない想いが全身から溢れ出ていて、あぁこの人はこの先もずっと玉姫に心臓を握りしめられたまま生きていくのだろうなと思わずこちらの胸も切なくなりました。
見し人の影澄み果てぬ池水に
ひとり宿守る秋の夜の月
余韻溢れるラストシーンにこの源氏物語の夕霧の歌がふと思い浮かびます。
本当に見事な構成の美しい物語で、指田先生は次にはどんな世界に誘ってくれるのか、とても楽しみです。
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