LIVE配信感想
引き続き物語とキャストの感想を。
アンブル♪みさきちゃん(星空美咲)
ヒロインのアンブルはオクターヴの姉。
恋人ではないという宝塚では珍しいパターンです。
でも父を殺した者への復讐という共通の思いで二人は濃密に結ばれています。
そもそもまだ幼かったオクターヴに父を殺した人達の会話の内容を告げたのは姉のアンブルだったような。
1回きりのLIVE配信の鑑賞だから違っているかもしれないけれど、アンブルは子供のころから慎重に確実にそして切れ目なくオクターブに復讐心を植え付けていったように思えます。
けれども、彼女がオクターヴに告げなかったこともあります。
一つはオクターヴは父が召使いに産ませた子供であり、母の連れ子のアンブルとでは全く血が繋がっていないということ。
そしてもう一つは、姉イネスの存在。
幼いオクターヴはイネスのことをたまに屋敷にくる親戚くらいに思っていたのね。
アンブルは彼女が長姉であることをあえて告げていない。
望まぬ結婚を強いられ自死を選んだ姉イネスは理想の父親像に隠された闇です。
それだけではなく、その殺された父の子供は自分たち二人だけであるというアンブルが思い描く概念には邪魔な存在だったのかもしれません。
血の繋がりがあろうがなかろうが表面上は姉弟のアンブルはオクターヴと男女として結ばれることはありません。
だからこそ愛するオクターヴと恋人以上に固く結ばれるためには、たったひとりの血の繋がった姉であり続けなければならない。
それだけでは足りず復讐の共犯者としても結びつかなければならない。
そんなアンブルの強い意志が感じられます。
終幕、オクターヴが犯した復讐という名の殺人も、正当防衛と言えなくもない殺人も、何もかもすべて闇に葬り去られます。
償うことすらできない永劫の罪を共に抱えることで、ついにアンブルはオクターヴを永遠に手に入れたのかもしれません。
いまやオクターヴはすべての真実を知っているのにも関わらず、それでも姉弟として二人っきりで去っていきます。
一生心を捉え続けるといえば、指田珠子先生デビュー作の「龍の宮物語」の玉姫もそうでしたよね。
玉姫の死、さらに玉匣を開けることで二度と会えなくなっても、それゆえに玉姫に心臓を掴まれたままで清彦は雨の中を去っていきます。
愛と憎しみが同居する玉姫の複雑な心情。
恋人として触れることはけっして出来ないけれど、それゆえに心は囚われたままとなる愛の形。
指田先生はそういう関係性に心惹かれるのかしら?
ただ、「龍の宮物語」の時ほどその愛の形がはっきり浮かび上がってこなかったのは、やっぱりアンブルを演じたみさきちゃんの若さかなぁ。って思います。
今の段階では玉姫を演じたくらっち(有沙瞳)のようなわけにはいきません。
本人の若さと組内ポジションの若さゆえ、観客にとってはみさきちゃんのアンブルよりもほのかちゃん(聖乃あすか)のヴァランタンのほうが鮮烈だったんじゃないかしら。
ほのかちゃんの美しいビジュアル、キレまくったメイクと演技。
同じく美しいひとこちゃん(永久輝せあ)のオクターヴとの関係は耽美すら感じます。
その背徳感やバイオレンスに捉えられた観客も多かったはず。
みさきちゃんは演技力も歌声も実力者ではあるけれど、やはりまだ声が若い。
そして醸し出す情感がまっすぐ。
複雑怪奇な恋愛感情とその苦しみを表現できるくらい成熟してからこの役を演じられたらどれほど良かったか。
劇団の思惑もいろいろとあるだろうけれど、演じようによっては彼女の代表作ともなりうる役柄だっただけにそのあまりの促成栽培はちょっともったいなく思いました。
とはいえ、フィナーレで踊るみさきちゃんはものすごくオーラがあったわ。
手足が長く華やか。
途中、しゃがむような振付のところの足さばきがグチョグチョってなって、あまり美しくなかったのだけは惜しかったかな。
こういうところに基礎が身体に染み込んでいる人とそうでない人の差が出ちゃうのよね。
やっぱりダンスの積み重ねがまだあまりない人なのかも。
どのようなレッスンを積んできた人なのかといった経歴は全く知らないので間違ってたらごめんなさいですが。
でも、たとえ小さい頃からバレエやジャズなどをみっちり経験してこなくても、持ち前の運動神経とセンスの良さで入団してからぐんぐん上手になっていくタイプの人っていっぱいいるんです。
例えば、うめちゃん(陽月華)とか。
おそらく、ちぎちゃん(早霧せいな)もそうだったんじゃないかしら?いや定かではないが。
バレエの基礎が少ないからこその魅力ってあるんですよ。
スポンジのようにいろんなことを吸収できる下級生時代、最初に身体に入ってくるものが宝塚独特のダンスというのも、ある意味では良いことなのかもしれません。
みさきちゃんもそういうタイプのような気がする。
だから自信を持って、もっと自分を開放して、のびのびと踊り、豊かに演じて欲しい。
きっともっと、さらに輝くと思います。
怪我にだけは気をつけてね。
コメント