ポプラ社-江戸川乱歩・少年探偵シリーズ-「明智小五郎の事件簿ー黒蜥蜴」

【2017-02-07】
スカステ視聴記録

「明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴」スカステ録画観賞。

もしかしたら少数派かもしれないけれど、とんでもなく好きです!!この作品。

ツボだ~~~。

「黒蜥蜴」と聞いて三島由紀夫の脚本とか美輪明宏さんの舞台とかの耽美的世界を思い描いた人は(おそらく大多数だろうけど)きっと受け付けないと思う。

でも私は「明智小五郎の事件簿」と聞いて思い出すのが私くらいの年代の人が通った小学校の図書館には必ず揃っていたポプラ社の少年探偵・江戸川乱歩シリーズのほうなのです。

出典:ポプラ文庫 日本文学 江戸川乱歩・少年探偵シリーズ 怪人二十面相

出典:ポプラ文庫 日本文学 江戸川乱歩・少年探偵シリーズ 黒い魔女

懐かしいわ~~。

レトロな車の追跡シーンなんて あの頃、本棚の端から端までで読んだ冒険活劇の数々を連想させてほんとワクワクする。

何が好きって、まず甲斐正人先生の曲が好き。

宝塚っぽくはないけれど、なんか血湧き肉躍るのよ。甲斐先生の曲って。

「とかげ~~~~~~♪」はもちろん

「どうか僕と、どうか僕と結婚してください♪」も好き。

告白ソングはそれこそ星の数ほど生み出してきた宝塚の歴史の中でこれほど直裁的な歌詞はおそらくなかったに違いないけど。

木村信司先生のちょっと脱力するくらいの歌詞にはノリノリの甲斐メロディがピッタリ。

最近の木村作品はなぜか作曲家が変わってしまって、すご~~く残念。

それから舞台装置。

どの場面も全部好き!!

レトロなエレベータを真ん中に配したホテルのセットも素敵ですが、巨大屏風でお屋敷を表現しているのもぶっ飛んでて面白い。

キュビズムっぽい青灰色のビル群の背景も、分厚いカーテンのようなポッテリとした量感の真紅の背景も好き。

なかでも一番好きなのがクジラの骨のようなアーチ状と斜め方向にシャープに組み上げられた構造物の背後からボッティチェリの巨大ビーナスが覗いているセット。

カッコいいわ~。

元ネタは、シュルレアリスムを代表する画家ルネ・マグリット?

装置担当は大田創(おおたはじめ)さんという外部の方。

「Ernest in Love」の鳥籠もこの方なんですね。

演出も独特。

ホテルの従業員達が観客として「黒蜥蜴正体を現す!の巻」を見上げる構図がこれまたナンセンスで好き。

それから女中さん、書生、少年探偵団、黒蜥蜴が保護している女性。

全てにおいて同じ服装の人達が過剰な数でぞろぞろ出てくる。

もちろん、宝塚って、もともと一般の舞台より人数多めなんだけれど…。

それにしたって、いくらなんでも多すぎだろ~~~~!

って思わず突っ込みをいれたくなるほど。

でも、きっと、これ、わざとなのね。

こんなおじさん窓の外にに大増殖とか、

おじさん空に大発生とか~。

シュルレアリスムには、不条理な絵がいっぱい。

まぁ黒蜥蜴が保護している女性があれだけの大人数ってあたりで観客はこの話はリアリズムでないことに気がつくとは思うのだけれど。

かぎりなく現実に近い異世界。

まるで夢の中を覘いているような現実感。

しかし、宝塚ファンにそんなシュルレアリスムの世界観が好きな人がどれほどいるかは、はなはだ疑問ではある…。

ロマン主義とか耽美主義の展覧会を見に行ったら人を不安な気分に陥れるへんてこりんな絵ばかり並んでいた。みたいな感じだもんね。

この舞台観て、激怒した真面目な人、もしかしたら多いかもしれない。

宝塚はショーは、ほぼすべて、そんな夢の中を覘いているようなイメージで作られているんだけどな~。

芝居のほうだと、なぜだかみんな、ある程度のリアルさを求めるよね。

でもシュール好きの私にとっちゃこりゃ、たまらん舞台だわ~~~。

もし、その頃、宝塚観劇をしていたら、間違いなく通うわ。

先月観た上田先生の「金色の砂漠」はまったく架空の砂漠の国の異世界を緻密なセリフで構築。

作者の思想や主張は廃し、物語世界のみを劇的に描いていた。

一方でこの「明智小五郎の事件簿」は身近な日本の昭和時代を描いても、どこか不条理で現実離れしている。

その上、作者の思想や主張の押し付けによって観客が物語に入り込むのを阻害してしまうところさえある。

まったく正反対の作品なんだけれどでも、そのどちらも大好きなのよ。

演出家が違うとはいえ、同じ劇団の作品のテイストがこんなにも違うことって他の劇団ではありえないことだと思う。

作品のバラエティに富んでいるところが宝塚の魅力。

名作・迷作、等しく愛おしい

出演者では同じ外見なのに、

  • 令嬢早苗のふりをしている葉子
  • 素の葉子
  • 黒蜥蜴が変装した令嬢早苗

と実質3役を演じ分けたすみか(野々すみ花)が凄かった。

娘役がこれほどの演技力を要求される役を演じさせてもらう機会って男役優先の宝塚の世界ではなかなかないんじゃないかな。

それから、いちか(桜一花)の演じた悧発な小林少年。

ぷぅっと頬を膨らませた表情も弾けるように走る姿を表現したダンスも何もかも。

もう、反則なくらい可愛い!!

とはいえ黒蜥蜴には、たしか乱歩の原作にも三島の戯曲にも小林少年は出てこなかったはず。

ということで、この宝塚バージョンはやっぱりポプラ社の少年探偵シリーズをイメージして創作されているということなんだろうなぁ。

こんな可愛い小林少年を見られたのだからポプラ社に感謝です~。

黒蜥蜴のあやね(桜乃彩音)も大健闘。

日本的な大人びた顔立ちに聖少女な中身という彼女ならではのアンバランスな個性が生きていたと思う。

男装もソフト帽から覗いた顎のラインがなかなかシャープでイカスわ~。(この舞台ってレトロな死語が似合うわね。)

そしておさ(春野寿美礼)

男役発声を超越した自在な歌声。

なんだか、もう今まで聞いたことがない神秘的な音色の不思議な楽器のような響き。

いや、存在自体すら、なにもかも超越した感じ。

まさに、シュルレアリスム(超現実)。

下級生時代をずっと見てきた人だけどお披露目の「エリザベート」以外トップ時代の舞台は観ていないので
こういうトップになっていたとは…知らなかった。

だれも、何も寄せ付けない孤高のトップスター。

そんな感じがする。

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