「NEVER SAY GOODBYE」観劇感想

【2020-04-07】
【2020-05-01】
観劇・LIVE配信感想

初演はちょうど観劇ブランクの頃。

主だった楽曲はいろいろなCDで繰り返し聞いていましたが、ずっと以前にスカステで一度見たはずの舞台の記憶はほとんどないまま劇場で1回と大千穐楽のLIVE配信をみました。

コーラスの宙組!

劇場ではバルセロナ市民の歌の圧に打ちのめされました。

まず一幕。市長♪りっつ(若翔りつ)のソロに泣かされた。

単に歌がうまいっていうだけではなく芝居としての切迫感というか悲壮感というか。

それは確かに歌なんだけれど、まるでセリフのようにすごくリアリティを感じます。

高音に上がっていくところではその声の響きと心の琴線が共鳴しあってブワーっと涙が込み上げてきて…。

続くラ・パッショナリア♪あーちゃん(留依蒔世)のパワフルボイスにも圧倒されました。

すごいな。

すごいわ、宙組。

ソロの見事さだけでなく「ノーパサラン!」でのバルセロナ市民の連帯、やがて訪れる対立。

そして1幕の幕切れ「One Heart」での一体感。

まさに怒涛の展開と重なり合う歌声のうねりによって、何がなんだか感情が追いつかないままひたすら涙が流れるという状態に。

もちろんどの組だってみんな上手いし迫力だって申し分ないのだけれど、劇場で体感した宙組のコーラスは異次元でした。

単純に上手いとか美しいとか揃ってるというだけではない、なにか特別な力が感じられたのよね。

劇場の座席で直接感じ取ることが出来るその声の波動というものは、なにものにも代えがたいという事を実感しました。

ジョルジュ♪ゆりか氏(真風涼帆)

そしてその素晴らしいコーラスの中、ジョルジュ♪ゆりか氏(真風涼帆)の声がとても心地よかった。

その篤実な声の響きが真ん中から湧き上がると、ものすごく説得力がある。

そして何より心が安らぐ。包まれるような温かさ。

劇場で観たあとに丁度初舞台生特集に合わせて放送された初演を見直したのですが当然ながら役の個性がゆりか氏とたかこさん(和央ようか)では違っていて興味深かったです。

歌声の違いと時代の違いもあるのでしょう。

初演のジョルジュは高らかに歌い上げ、余裕と自信に溢れたヒーローの格好良さ。

時代的にも主演男役には特別な才が備わっている事が好まれていたのかもしれません。それになによりサヨナラ公演でしたしね。

一方ゆりか氏のジョルジュはあれほどの美丈夫なのにどこか自分に対する迷いの影がみられる気がしました。

才能もあり名声を得ていてもデラシネ、根無し草でしかないという寂しさをふと感じます。

異郷のスペインで出会った人々と歴史の大きなうねり中、そして何より真実の愛を得てその心の穴が少しずつ埋まっていく。そんな感じ。

だから歌においても迫力の宙組コーラスの厚み中でゆりか氏の声はさらに温かさと包容力が増していくし、そして逆に柔らかなゆりか氏の声によって宙組コーラスの鮮烈さがより際立っていく。

今の宙組だからこそできる厚みと深み。

お互いに高め合う声と芝居の関係性に感動しました。

ヴィセント♪キキちゃん(芹香斗亜)

LIVE配信では劇場では捉えることができない演者の細やかな表情の変化を堪能しました。

特に好きな場面は2幕のヴィセント♪キキちゃん(芹香斗亜)がジョルジュに対して「お前は写真を撮るだけ」と怒りをぶつけてしまうところ。

でもこれ、本心から責めているわけじゃないのですね。

ヴィセントにとって故郷バルセロナの連帯がバラバラとなり、そこを離れなければならないことがどれほどの苦しみだったことでしょう。

いったい何のために闘牛を捨て銃を持ち戦ったのかと、己の存在意義すら失いかねないほどの葛藤です。

その苦しみと苛立ちを、思わずジョルジュにぶつけてしまった。

けっして本気で戦いに加わってほしかったわけじゃないと思うんです。

だってジョルジュが戦いに加わると告げた時、ヴィセントはほんの一瞬とても悲しげな眼差しでジョルジュを見つめました。

LIVE配信で見たあの憂いのある美しいキキちゃんの表情が忘れられない。

闘牛を捨てた彼にはジョルジュがカメラではなく銃を持つことの意味が誰よりもわかっているのですもの。

思わず浮かんでしまった悲しみの表情を柔らかく抑え、自分と同じ決心をしたジョルジュの思いを受け止めて穏やかに微笑むヴィセントがまた素晴らしくて。

とにかくここのキキちゃんの一連の表情に胸を打たれました。

男同士の友情も胸熱だけれど恋人テレサ♪ひろこちゃん(水音志保)との相性の良さもドキドキだったわ。

ひろこちゃんの芝居はやや情感が少なめではあるけど、そこがサバサバとした西洋の女性の自我を感じさせて良かったです。

なによりその身のこなし。背中の美しさ。

芝居よりもダンスで雄弁に語るタイプですね。大好き。

スッとキキちゃんの胸の中に入る動きもすごく美しいの。

その阿吽の呼吸を見るだけでこの二人は何も言わなくても解り合えているんだなって思える。

だから描かれてはいないけれど、どうか内戦を生き抜いてヴィセントと再会して~。

テレサがエンリケ♪れいとくん(奈央麗斗)のおばあちゃんであってほしい!

れいとくん、クールビューティーで雰囲気ひろこちゃんと似てないかい?

絶対、孫だよね?

アギラール♪ずんちゃん(桜木みなと)

劇場で観たのは初日開けてすぐ。

そして大千穐楽LIVE配信、久しぶりに見たずんちゃん(桜木みなと)は迫力倍増でした。

振り切ったね!

民兵を組織しなければ二度目は勝てない。それは真実です。

だから彼の言っていることは正論ではあるんだけれど、それよりもむしろ己の権力欲と支配欲に飲み込まれていく狂気にゾクゾクしたわ。

そのあっけない結末も好き。

ハッチさん(夏美よう)のちょっとくたびれた中年感がまたいい味で。

なにせハッチさんなんで、ただのくたびれ男じゃないんだよな~。

ずんちゃんのメラメラの狂気とハッチさんの隠れた冷酷。

すごくいいコンビネーションで、悪役フェチの血が騒いだわ。

キャサリン♪かのちゃん(潤花)

真っ直ぐで、オモテウラがなくって、とにかく恐れを知らないキャサリン。

なにぶん曲だけはCDで何度も聞いていたので、このままの地声歌唱で上がっていったら高音部大丈夫かな?ってちょっと手に汗握りましたが中音域の声は迫力あって、その響きに感動しました。

かのちゃんのストレートにぶつかっていく素直さと勇気ある女性像ってすごく好き。

こんな風に陽のオーラを放つ一方で「シャーロックホームズ」のアイリーン・アドラーのような一筋縄ではいかない女性も似合ってたよね。

次はどんな役なんだろう。楽しみになっちゃう。

エレン♪じゅりちゃん(天彩峰里)

頭空っぽのわがままハリウッド女優なのかと思わせておいて、意外に深みがあったのがじゅりちゃん。

そうだよ。ジョルジュが一度は本気で惚れた女なんだよ。

そう感じさせる説得力があった。

エレンはめちゃくちゃいい女だ。

気が強くて、プライド高くて、だけどどこか寂しさを抱えていて。

ジョルジュの本質だってきっとわかっていたと思う。

おそらくエレンもデラシネなのよ。

人気写真家とハリウッド女優という出会いでなければきっと二人は魂の双子だったんじゃないかな~。

まぁ、性格が似過ぎるとその分ぶつかることも多いんだけどね。

オリンピアーダ達

しどりゅー(紫藤りゅう)が好きだったなぁ。

いかにもヨーロッパの戦前のオリンピアンってイメージの古風さと上品さ。

この時代より古いけれど、1924年のパリオリンピックを舞台にした「炎のランナー」って映画があったのよね。

その中にしどりゅーみたいな感じの人いなかったっけ?

オリンピアーダ達はあんまり現代的じゃないほうがいいの。

金髪しどりゅー素敵でした。

里心がついてしまって脱落するタリック♪キョロちゃん(亜音有星)が目立つ役。

そりゃぁ国へ帰りたいよ。

戦争なんだよ。とてつもなく恐ろしいよ。

ラストの戦い。

次々と撃たれていく仲間たち。

タリックが斃れた友に駆け寄ったところで暗転。

ジョルジュをリフトするオリンピアーダ達の中にもタリックはいなかったと思う。

あのリフトメンバーは戦死した人たちだったのか!

あぁ、きっと彼は生きて国に帰れたのだね。

よかった~。

今の世界情勢とリンクする部分もある作品だから、たとえフィクションでもどこか気持ちが救われたような気がしました。

オリンピアーダ達は割りといっぺんに出てくるので、それぞれの個性というのが1回の観劇ではつかめなかったのがちょっと心残り。

本当に素晴らしい舞台で、せめてあともう一回劇場に行って宙組の圧倒的なパワーを肌で感じたかったなぁ。

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