スカステ視聴記録
有限の短い時を生きるタカラジェンヌの舞台が奪われる、あるいは奪われるかもしれないというこの状況が悔しいです。
誰が悪いわけでもないし、それがこの時代の運命なのだと受け入れようとしても悲しいものは悲しい。
劇場に行くことが出来なくても日々舞台が動いていることを実感したいから突然Twitterを始めたけど、流れてきたのは公演中止と退団発表への哀しみのつぶやき。
タイムラインを読んでいると、あやなちゃん(綾凰華)のお知らせにかつてのまひろちゃん(麻尋しゅん)退団を想い起こした人がいらっしゃいました。
私の観劇ブランクの時期に入団し、卒業してしまったまひろちゃん。
でも昨年スカステで懐かしの新人公演を特集してくれたことで知ることが出来ました。
どちらかと言えば柔らかな男役さんで、その美しさ、儚さ、胸に迫る演技。そしてこれから!という時の退団。
確かにどことなくあやなちゃんに通じるところがあるかもしれません。
私はまひろちゃんのタカラジェンヌ時代の舞台は見ることは出来なかったけれど、こうしてずっと後に映像で出会って好きになることが出来た。
そう考えると、短い在団期間ではあってもその記憶と輝きは永遠なんだなぁと思えてきます。
もちろん、実際の舞台を見たかったよ~とジタバタすることにはなりましたが。
だからまだあやなちゃんを知らない皆様。どうか一日も早く巡り合ってね。
あとたった1作しかないんだよぉぉ~と嘆かずにはいられません。
そしておそらく何年か先、映像で初めてあやなちゃんを知ることとなる未来のファンもいることでしょう。
その時に新人公演の放送があるといいんだけどなぁ。
あやなちゃんが新人公演で主演したのは「ひかりふる路」と「ファントム」です。
どちらも素敵でしたが、私が一番好きな新人公演のあやなちゃんは主演ではないけれど「凱旋門」なんです。
もちろん観に行けるわけもなくスカステのみの鑑賞でしたが。
これは原作の著作権も関係していて、将来の放送はかなり難しいかもしれない。
未来のあやなちゃんファンのためにも今のうちに感想メモを残しておきましょう。まだ記録してなかったわ。
ボリス♪あやなちゃん(綾凰華)
ボリスはこの物語の語り部。
いわば目撃者です。
ロシア革命を逃れ、第二次世界大戦前夜のパリでナイトクラブのドアマンとして働く男。
身分証明書を持つ彼は身を潜める必要は無いのですが、ナチスに目をつけられパリに潜むドイツ人ラヴィックはじめ亡命者のことをさりげなく気にかけています。
といっても、
「俺も女性は行きずりに限っている」
なんてセリフをポロっと口にするように、自分のこととなると割と虚無的なのよね。
この優しさと刹那のバランスがたまらなく色っぽい。
あやなちゃんは不思議な魅力の男役さんだと思います。
ボリスの役柄的にそうなるのかもしれないけれど、壮年の男性を描く時にある能動的、あるいは攻撃的なギラギラ感がなくてどちらかと言えば受け身がち。
なんて書いてしまうと、押し出しが弱いと勘違いされるかもしれないけれど、けっして存在感が薄いわけではないのです。
悼む人
寄り添う人
見送る人
そんな言葉が思い浮かびます。
このボリスもあれこれラヴィックの世話を焼くけれども時代の奔流には逆らえず、根本的に助ける事などできません。
ラヴィックはボリスが用意した偽パスポートを将来のある若者に渡してしまう。
ボリスはそれを見守り、受け入れ、収容所へと向かうラヴィックをただ見送ることしか出来ない。
そしておそらく生きてパリに戻ってくることのないラヴィックを悼むことになるのでしょう。
あやなちゃんのキラキラというかウルウルというかいつも揺れて輝いている瞳にはどんな世界が映っているんだろう。
世の無情を見つめ、けれどけっして責めることなく、ただ共に悲しんでくれる美しい瞳。
この「凱旋門」というある意味「世界の終わりの物語」が、若い新人公演であっても憂いの色彩を帯びることが出来たのは、あやなちゃんの個性と演技によるものが大きかったと思います。
そして、そののち、「fff」でまあやちゃん(真彩希帆)を
「CITY HUNTER」でりさちゃん(星南のぞみ)をと
同期生の退団をひとりずつ優しく見送った今、あやなちゃんは自らの卒業を決めたのでしょうか。
ラヴィック♪あがちん(縣千)
初主演にして専科いしさん(轟悠)が演じた黄昏の中年男という高いハードルを課せられたあがちん。
もちろん新人公演なので中年ではなく青年ラヴィックでした。
そして本当に美しい男。
美しい男が美しい女と恋をする。その必然よ。
世が世なら大病院の外科部長というそれなりに傲慢な男であるラヴィック。
その傲慢を青年特有のやり場のない苛立ち、時代に対する怒りという形でストレートに表現しているのがとても良かった。
ラストの
「あまりに暗くて凱旋門も見えない」
というセリフも悲痛な叫び声となっていて、いしさんとはひと味違った苦しさが胸にせまりました。
ジョアン♪かのちゃん(潤花)
いまや宙組トップ娘役、かのちゃん。
「ひかりふる路」についで2回目の新人公演ヒロインです。
男役10年と言われるのでこの学年では娘役さんのほうが演技力が高いのは当たり前なのですが、それにしても上手い。
華やかでまるで大輪の花のようでした。
ラヴィックと共にいる時の多幸感が印象的だったまあやちゃん(真彩希帆)のジョアンを踏襲しながらも、どことなく近づいてはヤバい女の雰囲気が漂います。
まさにファム・ファタール。
こりゃあ、男はあがらえないわ。
アンリ♪るいくん(眞ノ宮るい)
まだキュルキュル時代のるいくん。
爽やかなイケメン新進俳優です。
アンティーブでのジョアンとのダンスはとても輝いていました。
踊りのリズムがとっても粋で、これはもう絶対チャーミングな人気俳優さんなんだろうなぁ。
この頃、歌がやや不安定だったのは動きながら歌うというスキルがまだ身についていなかったからなのね、というのが今となってはわかります。
いやあれは本当に出来ることじゃない!って「すみれDanceアカデミー」で身を持って体験したわ。
動きながらでは息がまったく続かないし、音程なんて絶対とれないよ。
それがここから数年経つと踊りながらでもしっかり息がキープ出来るようになっていく。
ジェンヌの皆様の努力と成長って素晴らしいわ。
一転してラヴィックと会っていたジョアンの部屋に入っていくところ。ここ、なかなか凄まじかった。
優しい口調なのにひんやりと冷たくて、なんだかものすごく加虐的。
ハッと身がすくむようです。
ジョアンを抱きしめる姿も切羽詰ったような狂おしさが込められていて、独占欲、ラヴィックより強いかもしれない。
ジョアンを撃ってしまったという告白や死にゆくジョアンを見つめるところも、とてもうまかった。
保身というよりはむしろ自分の想いだけに手一杯で、周りの声が全く耳に入らずにうわ言のように言葉がこぼれ出てしまうのね。
それでもジョアンへの愛はしっかり垣間見え、だからこそジョアンが男を惹きつけてやまない運命の女なんだという事実がはっきりと立ち上がってきます。
るいくんの役をつかむセンス、すごく好きだわ。
時をおいて見返す楽しさ
初回放送の時も見たのですが、今、改めて録画を見返すと最初にはわかってなかったいろんな人が目に入ってきて楽しい楽しい!
アコーディオン弾き♪せいみぃ(聖海由侑)
本当に西洋の少年のようなお顔立ち。
カフェのギャルソン♪いちか(一禾あお)
ギャルソンの軽快さがバッチリ。この店楽しい。贔屓にしたい。
不倫相手の青年♪しゃんたん(壮海はるま)
ちょっと頼りないけど絶対いい人じゃん。二人ともどうか生き延びて幸せになって~。
娼婦♪ありすちゃん(有栖妃華)
もちろん歌あり。かわいいお顔立ちなのにものすごく色っぽかった。びっくりした。
新人公演はもちろん拙い部分もあり、ご本人にしてみれば今更放送しないで~っていう案件かもしれません。
でもその成長や新たな発見がたくさんつまっていて、本当に素晴らしい。
放送もバンバンしてほしい!
そしてどうか、どうか、不安なく本公演も新人公演もできる世の中に一日も早くなりますように。
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