「蒼穹の昴」観劇感想5 あーさ編(と、眞ノ宮るいくんのこと)

【2022-12-04,25】
観劇・LIVE配信感想

年末に書き始めた「蒼穹の昴」観劇感想が全然進まなかった~。

疲れて家でパソコンにむかう気力もわかなかったわ。コタツは人をだめにしますね。

お正月も明けて半月が経とうとしていますがようやく春児編です。もちろんかっこいいお師匠様のことにもふれますよ!

これまでカミソリのような鋭さを持ったサン・ジュストや斎藤一、あるいはミックや総太郎といった一癖ある色男を演じてきたあーさ(朝美絢)がどこまでもピュアな春児を演じる。

ぴったりなようでもあり、全く想像できないようでもあり。とにかくとても楽しみにしていました。

幕開きは確か11歳。子供のシーンから。

ぺたんこ靴に頼るだけでなく、ひざや背筋を無頓着に緩めていて文秀との身長差を生み出してましたね。

普段は1ミリのスキもない男役さんがここまで無防備な姿を見せてるってかなりレアです。

銀橋で星空を見上げるときも市場でたくさんの食べ物や宦官を初めて見るときも、いつも純粋な驚きと好奇心とで瞳がキラキラと輝いているのがすごく愛らしい。こんなに可愛いあーさ初めて見たかも。

そしてその後、文秀との言い争いから銀橋での歌になっていくところが素晴らしかった!

龍舞の男たち(先頭で玉を掲げて躍動するのは眞ノ宮るいくん!)に阻まれて春児を見失ってしまう文秀。

市場の喧騒から銀橋に駆け出してくることで春児が見知らぬ寂しい路地にひとり迷い込んでしまったことがわかります。

グランドロマンというと歌入り芝居っぽいイメージなんだけれど、この場面の入り方はミュージカル的でさらに引き込まれました。

そしてまるで語るように歌いはじめ、それがメロディになっていくヴァース(序奏部分)のところ、すごく上手いなぁ。

Aメロに入ると「ちくしょう ちくしょう ちくしょう」というフレーズが印象的です。

その言葉には泥をすするような貧乏という理不尽に対してだけでなく、自分がまだ子供でしかないという苛立ちも含まれているように感じました。

彼は貧しく学もなく、広い世界のことなどは何もわかっていない子供だけれど一方でとても大人。いや大人にならざるを得ない。というか家族を幸せにするために一刻も早く大人になりたいと願っている少年なのだね。

子役はただ子供らしく演じればいいというものではないのか!すごく奥深いわ。あーさの演技力やっぱりすごい。

富貴寺の場面もとっても好き!

それにしても銀橋での修行の演舞。すごかった。

春児は長い棒、師匠の黒牡丹♪るいくん(眞ノ宮るい)は木の刀を振り回して京劇における中国武術の形と組み手を演じる。

しかもるいくんは片目に包帯巻いているんだよ!

うっすらとは見えるのかもしれないけれど視界は絶対悪いはず。それであんなコトしてたら銀橋を踏み外したっておかしくはないわ。

ファン心ゆえにかなりドキドキしながら観てましたが、演じる二人はいっさいの迷いも乱れもなく、それどころかすごい高速で手あわせしてました。

春児の決めポーズ直前、高く振り上げた脚先が完璧に90度のフレックスなのがまさに中国武術!香港映画好きとしてはテンション上がります。あれほんと凄い。つま先伸ばすより絶対難しい!

貧乏ゆえにこれまで「学ぶ」という経験が全くなかった春児が生まれて初めて黒牡丹という師匠を得た喜びはいかばかりだったろう。

修行はもちろんものすごく厳しかったのだろうけれど、知らなかったたくさんのことを知り身につけていく日々。それはあっという間の年月だったに違いありません。

あーさのキラキラの瞳は更に活き活きと学ぶ喜びに溢れ、無防備だった姿勢もピキッと凛々しくなって成長が感じられます。

小説だと凄腕の老宦官たちの特訓によって料理も掃除も京劇の技も何もかもパーフェクトに身につけてしまうのだけれども、舞台化にあたってはそんな痛快な異能を見せるのではなく春児のひたむきさに焦点をあてて演じられていることがとても好き。

そしてるいくん演じる黒牡丹には師匠という側面だけではなく、かつて花形役者だったというオーラが感じられました。

舞台で踊る姿はどれほど美しかったことでしょう。声も魅力的に違いありません。なんたって西太后一番のお気に入り役者です。

そんな艶やかさを残したまま病に苛まれるさまがとても色っぽかった。

役者としての全盛期で紫禁城を辞さなければならなかった無念がそこはかとなく感じられます。

「お前の若い頃にそっくりだな」と話しかける金八♪りんとくん(稀羽りんと)の言葉に「俺の若い頃はもっと…」と言いかけて激しく咳き込んでしまう。

その続きはなんて言おうとしたのかしら。

おそらく答えはひとつではなく、いろんな想いがあったのでは?

「もっと巧かった。」

うん、まずはありだわ。

黒牡丹は100年にひとりと称された京劇役者。病さえなければ空だって飛んで見せるって言えるほどの跳躍力だったんだ。引退した今だって誇り高い。

「もっと傲慢だった。」

これも絶対ありだと思う!

るいくんの黒牡丹には孤高の翳りを感じます。

きっと若い頃は誰とも群れずただ芸にのみひたむきで、それゆえ自己中心的。

圧倒的な芸の力を見せつけてライバルを容赦なく蹴落としたことだってあったかもしれません。

春児のような優しさはなかったでしょう。

そしてその芸はけっして誰にも教えなかったはず。

命が尽きようとする今、自分の若い頃とそっくりで、だけど全く正反対でもある春児と出会い、芸のすべてを伝える。

それは黒牡丹にとってもただ一度きりのそして最上の喜びとなったんだろうなぁ。

春児の伺候が決まった時に一瞬浮かべた安堵と寂しさが入り混じった表情。

なにも語らなくてもこれまでの二人の日々がどれほど濃密であったかがわかります。

けれども春児にとってそれは「学ぶ」場所を離れ独り立ちしなければならないということ。

「出来ないと思ったら真っ直ぐ歩くことだってできやしないんだ」

師匠の言葉を胸に、春児はついに少年時代に別れを告げます。

大婚式の場面も素晴らしかった!

ここでも黒牡丹が登場するのがるいくんファンとしては嬉しかったわ。しかも超かっこいいエレキのBGM付き!

原作では既に亡くなっているんだよね。紫禁城の警備どうなってるんだ!という整合性なんかは置いといて、こういう芝居ならではの盛り上がりっていいじゃない!

京劇の衣装はなんと本物をお借りしたんだそう。

身動きすらとれそうもないまるで鎧のような装束はどれほどの重量があるのでしょうか?

しかもこの「挑滑車」の高寵という武将役の春児にはグルグル高速回転する振付があり、背中に4本もついている旗によってもものすごい遠心力が働いているのが見て取れます。

いやもう女性の筋力じゃぁ振り回されちゃって踊るどころじゃないはずよ!

その上、長い槍までぐるぐる回してすごい迫力!

るいくんは隈取りの仮面をつけ、ここでも視界が限られたままであーさと立ち回りです。

たとえほんのさわり部分だとしても長い修練が必要な京劇を短い稽古期間でここまで仕上げるとは!

舞台化にあたり浅田次郎さんから絶対に京劇シーンを入れてほしいというリクエストがあったとのことですが、その難題に果敢に取り組んだあーさ、るいくんを始めとする京劇メンバー、みんな凄いわ!ハオ!

そして誰もが一度は演じてみたいと思うであろう舞台上で誰かに抱かれたまま死ぬというドラマティックなシチュエーションをるいくんが演じていることに感無量です。

泣きすがる春児に師匠として最期の言葉を振り絞ってこと切れる黒牡丹。

病により半分が醜くただれたお顔だけれどとてもとても美しかったわ。

文秀との再会の場面はもう泣けて泣けて。

「文秀見てたの?」って言う声の心もとなさよ。文秀と話す時は子供の頃に戻ってしまうのね。

母の死を知らされてポツリと「おいら何してたんだろう…。」って言葉を漏らすのが切ないです。

一日も早く大人になって家族を幸せにしたいと都に出てから数年が経ってしまった。その間には修行に夢中になるあまり家族を忘れてしまった一瞬もあったことでしょう。

あのキラキラと輝いていた瞳が取り戻すことの出来ない悔恨や迷いで虚ろになる。

でも文秀が一人前の男、対等な人間同士として話してくれているの。

喧嘩別れをした市場での小さな弟に対する接し方と全然違ってる!そのことに気が付いた瞬間もう涙涙です。

それは春児がずっと願ってきた「大人」となった証。

再び瞳に輝きを取り戻した春児が文秀と肩を並べて力強く歌う姿に涙が止まりませんでした。

【関連記事はこちら】>>>「蒼穹の昴」観劇感想2 さきちゃん編

後半になるとどうしても文秀メインのお話になるので、春児の物語は若干フェイドアウトです。

でも爆発の時に西太后を庇って覆いかぶさるシーンがありましたね。

たしか宦官はあんなふうにご主人さまに触れてはいけないんじゃなかったかな。原作忘れちゃったけど。

その禁を破り命をかけて西太后を守ろうとする姿が描かれていました。

後半の見せ場は何と言っても文秀の危機を知って日本公使館に駆けつけたシーンです。

「なんでだよー」と子供のように泣きじゃくる姿にこちらも爆泣きでした。

かつて自分の命を捨ててでも守ろうとした西太后の排除を図った文秀に「なんにも悪いことしてないのに」と言うのはよく考えてみれば矛盾しているのだけれど、それが嘘偽りのない春児の心なんだろうなぁ。

文秀も西太后も富貴寺の宦官たちも春児にとっては等しく愛の対象なのね。彼の願いはそんな身近な人たちの幸せ。ただそれだけなのだから。

ラストでは長い赤い壁の道をかけてくる春児の帽子の宝玉がかつて市場で見た李蓮英と同じ最高位の赤い色になっています。

己の権力にも蓄財にも無頓着で、ただ愛する人たちを幸せにしたかっただけの春児が宮廷において最高の地位を得てしまうとは。なんというファンタジーでしょうか。

そしてそんな彼が最も愛する二人、文秀と玲玲が生きて新しい未来に向かって旅立っていく。

別れの切なさを振り払って晴れやかな笑顔をみせる春児にまたまた涙が溢れてしまいました。

春児と文秀。二人の綾なす運命を描く「蒼穹の昴」

この物語において文秀はトップスターの役として王道だけれども、春児を子供時代から宦官としての頂点に立つまで演じられるスターは限られると思うのです。

玲玲を演じたきわちゃん(朝月希和)同様、子役を使わずその成長をすべて一人で演じきることができる男役。

あーさの存在無くしてはこの舞台化は成り立たなかったことでしょう。

2番手時代にあーさの役者としての幅の広さ、心揺さぶられる芝居を存分に堪能できる物語に巡り会えて良かった。

後々にはあれが出世作、当たり役だよねって語られるようになることを心から願ってます。

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