おおらかで清新 宙組「バロンの末裔」LIVE配信1

【2021-12-10】
LIVE配信感想

この先どんなにたくさん宝塚の舞台を観たとしても、おそらくMYトップ10、いやトップ3には入り続けるであろう、忘れられない作品です。

特に大きな改変はないのですが、どことなく初演とは印象が違う感じ。

でも、そこが良かったのかもしれません。

独自の色あいで今の宙組にしか出せないもう一つの「バロンの末裔」でした。

エドワードの愛

軍服のゆりか氏(真風涼帆)がとにかくかっこいい!

クラシカルなスーツも狩猟服も全部かっこいい!

ゆりか氏のエドワードは当時長身だったのんちゃん(久世星佳)よりさらに背も高くガタイもいいのですが、そういう見た目だけではなく役の個性もタフで英雄系。

どこかしら鬱屈のあるのんちゃんエドワードよりも前向きな感じがします。

変化と前進を求めるスケールの大きな男でした。

領地を継げない次男は家を出ていくしかないのだけれど、そもそも行動力と冒険心がある彼はスコットランドでじっとなんかしていられなかったでしょう。

軍人として外地に駐留し、戦術を考えたり、何が理にかなっているかを考えることが好き。←んん?「fff」のナポレオン?

たとえキャサリンを奪ってスコットランドを離れたとしても結局は彼女をひとりぼっちにしちゃいそうだわ。

どれほど愛していても、ただ愛だけに生きるなんて出来ない男。でもそこがかっこいい。

君に望むことは一つだけだ。幸せになってほしい。必ず。

愛する人には幸せになって欲しい。けれどそれが出来るのは自分ではないと自覚もしている。

だから雉撃ちの丘での説得力がすごいの。胸に確信がある感じ。

あんなふうに諭されたら、どんなに辛くてもそりゃぁ納得するしかないわ。

ローレンスの愛

エドワードはもちろんかっこいいんだけれど、今回はヘタレのローレンスがなんだかすごく好きになってしまった。

ゆりか氏のローレンス像は頼りなげではあるけれど、ノンちゃんほどは浮世離れはしていなかったかしら。

ローレンスのセリフのなかで大好きなのが、庭からキャサリンを呼ぶところ。

来てごらん。鶉の巣を見つけたよ。

あのね~。穀物相場に手を出してにっちもさっちもいかなくなった本人が、こーんな大変なときになんとまぁのんびりとぉぉ~って、おもわず脱力しちゃうセリフです。

けれど、ここに彼のすべてが詰まっているような気がするの。

幼い頃の兄弟二人とキャサリンがともに過ごした美しきスコットランド。その中でも見逃してしまいそうに小さな鶉の巣に注がれるローレンスの視線。

ローレンスが見つめているのはもしかしたら失われてしまう、いやもうすでに失われてしまった過去の世界なのかもしれません。

視野が狭いっちゃぁ狭いんだけれど、その視線は温かく優しい。

鶉もスコットランドの領地も、エドワードもキャサリンもローレンスにとってはすべて等しい愛の対象なんだろうなぁ。

彼にとって愛は多寡を競うものでも、奪うものでも、独占出来るものでもない、そこにただあるだけで美しい存在。

キャサリンはもちろんエドワードのほうを狂おしいほど愛しているのだけれど、一方で穏やかな愛を湛えたローレンスと共に歳を重ねようと思うのも真実の心なんだと思うわ。

ゆりか氏のローレンスはそれだけ実は芯の強い男に思えました。

もしもキャサリンがエドワードと出ていったとしても、二人の幸せを自分の幸せと感じてちゃんと生きていけそうな気がします。おっと、それじゃぁ話の根本が変わっちゃうけど。でもそこがいいの。

だって、とにかく大きな愛の人で、とても素敵でした。

そんなわけで感情移入してめっちゃ泣きながら配信を見てたのですが、見終わった後には意外にさっぱりと清新な気分になりました。

同じ愛の苦しみを描いても、乗り越えられないほどの切なさをそれでも乗り越えていかなければならない事と、きっと乗り越えていけると信じる事ができるというのでは受ける印象が違います。

それがサヨナラ公演の月組初演とふるさと凱旋公演の宙組再演の違いなのかもしれません。

どこか新しい「バロンの末裔」とっても清々しかったわ。

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