美しき夢魔「螺旋のオルフェ」

【2021-12-18】
スカステ視聴記録

久しぶりに観劇ブランク時代の舞台のスカイステージ録画を鑑賞。

といっても、もしかしたらこの舞台、劇場で観てたかもしれない。

「ノバ・ボサ・ノバ」を観に行ってるの。

噂に聞いた往年の名作ショーを観劇ブランク時期だったけれど劇場に観に行ったんだ。

でも、それが月組だったか、雪組だったのか…どうしても思い出せない。

あぁ情けないわ。何でもかんでも忘れちゃう。

まぁだからブログにぼそぼそ鑑賞記録なんて書いているわけですが。

月組「ノバ・ボサ・ノバ」の併演がこの「螺旋のオルフェ」です。

荻田浩一先生の大劇場デビュー作。

たしかずっと以前に舞台中継を一度見たような気もするのですが全く内容を覚えていませんでした。

そして舞台も観てたかもしれないのに記憶がない。

ところが、今見ると胸に刺さる。刺さる。

このすごい作品をすっかり忘れているなんて、なぜなんだ~~~!

今、この作品が刺さったのは大好きな「ひかりふる路」とシチュエーションがちょっぴり似ているからかな。

フランス革命下のパリで出会う革命家ロベスピエールと革命の犠牲者マリー=アンヌ。

第二次世界大戦中占領下のパリで出会うナチスの将校イブとレジスタンスのアデル。

極限状態のなかで、本来だったら会うはずもない二人が出会って強く惹かれあうって胸にぐっと来るのよ。

といってもアデルはまるで夢の中に現れた幻のようで、あまり実体感はないのですが。

アデル♪だんちゃん(檀れい)の美貌はもはや生きている人間とは思えないわ。

息を呑む、いや息がとまるほど美しい。

もちろん悪役フェチとしてはケロさん(汐美真帆)の冷徹な東側スパイも大好きです。

人の心を巧みに操る手腕はまるで地上の悪魔のよう。

やっぱり人間が一番怖いよね

けれどもこの物語が今、強く胸に刺さるのは、まだもう一つ大きな理由があるような気がします。

それはたぶん最初にこれを観た若い頃と今の私では未来の分量がまるで違うから。

どうやっても取り戻せない過去がたくさん積み重なり、それをひっくり返してくれるような未来はもはや僅か。

まぁ今のところ私は元気であと20年位は楽しく宝塚を観たいとは思ってるけど。

とはいえこの先どうなるかはわかりません。

生きている間に美しいものをたくさん見たいのにこんな世の中になってしまって美術館にさえなかなか出かけられない。年も年だし、いつまで元気でいられるか。あぁ切ないわ。

そんな自分とマミちゃん(真琴つばさ)演じるイブの心情が重なるからなのかも。

いやもちろん、イブは老人ではないのですが。

恋人を失い、ひとり生き残ってしまったイブの戦後はもはや晩年と言ってもいいのかもしれないです。

「生きている者は生き続けていく、それは死んだ人を忘れてしまうことじゃない」

死んだ恋人アデルの年若い妹ルシル(だんちゃん二役)は明るく前向きにイブに話します。

そしてそれはとても正しい言葉です。

その言葉を聞いた時のイブ♪マミちゃんの苦悩の表情が忘れられない。

未来のない人間に未来を語ってもそれはかえって苦しみと悔恨を招く。

その言葉が正しいがゆえに余計に苦しいわ。

だって生き続ける未来なんて彼にはもはやないのよ。

ラストはとても曖昧な終わり方でなんとでも解釈できそうです。

イブはルシルとの出会いを経てかすかな光を見出したようにも思えたのですが、ケロさんに操られたえりさん(嘉月絵理)、或いはタニ(大和悠河)に殺されたのかな~。

「長い夜が終わり、朝が来る」

そう言って螺旋階段を登っていったイブに朝がくることはあったんだろうか。

最後に渡っていく銀橋はこの世とあの世をつなぐ架け橋のようにも思えます。

この芝居全体がまるでイブが死ぬ前の一瞬に脳裏によぎった美しい夢魔のような気がしました。

今あらためて見ると、とても美しく、恐ろしく、胸をえぐる作品。

スカステで昔観た舞台を見返してみるのも新たな感情が生まれていいものです。

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