「フィレンツェに燃える」LIVE配信感想

【2022-10-22】
LIVE配信感想

この前Twitterでハイローのロッキーの手首の手錠にはどんな意味があるのだろうかって考えてらっしゃる方をお見かけし、ぉぉおおおお?それは思ったこともなかった~~!とびっくりしてしまった。解析力すごい!

「FLY WITH ME」で初めて見たその時からめちゃくちゃ刺さったキキちゃん(芹香斗亜)の扮装。

私、おもしれー!かっけー!すきぃぃぃー!以外に何にも考えてなかったよぉぉぉ。

ま、座右の銘は「Don’t think. FEEL!」なのでね…と、いうことにしておこう。

というわけで、どうやら芝居においても理由をあまり求めないタイプのようでして…。たとえ説明足らずだとしても、なんで?って全く疑問に思わないみたいです。

だからでしょうか?「フィレンツェに燃える」の世界観はとても好きでした。

それはおそらくまだ感受性の強かった若い頃に柴田侑宏作品にたくさん触れ、あえて行間を設けて想像の余地を残すという彼の演出作法に慣れ親しんでいることもあるのでしょう。

芝居に描かれてはいない行間を読むという感覚は説明不足を不満に思って自力で辻褄をあわせようとすることとはちょっとニュアンスが違うと思うんですよね。

描かれていないところは描かれないままで全然構わなくて、そこはもう「Don’t think. FEEL!」で済ましちゃっていいというか。

事実が明確に描かれていなくても立ち上がってくる背景をなんとなく受け取って登場人物の感情の急流に乗っかっていくのが好き。

そういう時にはくどくどとした説明とか整合性はかえって邪魔に思えたりもするのだ。

さて、そんな行間多めの今回の作品。

パメラ♪まどかちゃん(星風まどか)はしっとりと大人っぽく、柴田作品の文学的香気にもぴったりです。

まぁ、何度目の未亡人役かしら?という気はしますが。

そして年の離れた老公爵との結婚生活とその結末がどんなものだったのか、あえて明かされていないのがよいの。

財産目当てに結婚した悪女だとレッテルを貼る劇中の上流階級の人たちと同様に、観客も不確かな伝聞と表面的な事象で想像を巡らすしかない。

真相も彼女の本当の心の中も最後まで誰にもわからない。という構造にとても心惹かれます。

しかもここで効いてくるのが彼女に執心するオテロ♪ひとこ(永久輝せあ)の存在。

最初に登場した時、深く帽子を被っていて誰だかわからなかったけど、舞台中央の奥で凄まじい負のオーラを放つ美しいフェイスラインに釘付けになりました。

10秒くらい経ってひとこちゃん!って気が付いたわ。

微動だにせず佇み、そして何も言わずただ去っていく。

その姿にただならぬものを感じました。うわぁ~。この物語どうなっていくんだろう!ってドキドキ!

オテロはパメラが夫を殺したと確信していて、そしてそれゆえに狂おしいほど彼女に惹きつけられてもいるのね。

オテロの視点からのパメラ像はファム・ファタールそのもの。

ところで彼女は本当に夫を殺したのかしら?

具体的な殺人の実行犯とかではないだろうってなんとなく感じています。

でも病気の夫に死んでほしいと願ったことはあったかもしれません。

もしかしたら敢えて救命措置を取らずに静かに死を看取ったのかもしれません。

彼女自身はそんな悔恨を自分の罪と受け止めてしまうタイプなんじゃないかなぁ。

まぁ、描かれていない行間をこんな風に想像してそれが正しいか正しくないかなんてことは気にしない気にしない。

ただ、そういう今まで生きてきた中での悔恨とか罪とかを自覚している瞳を持つ切なげな美女だなんて、ある種の男性にとってはものすごく惹きつけられるだろうなぁということをうっすら感じ取れるだけでもうOKなのよ。

聡明で高潔な兄アントニオ♪れいちゃん(柚香光)はわざと露悪的な振る舞いをするパメラの心の奥に思いを寄せます。

一方、そんな兄のパメラに対する愛情は同情のすり替えに過ぎないととらえた自由奔放な弟レオナルド♪マイティ(水美舞斗)は彼女に偽りの恋を仕掛けるものの、いつしか本気の恋へと変わっていく。

兄の慈愛と弟の熱情。

二人の視点からのパメラ像はもちろんオテロのものとはまるで違う。

視点が変わると物語が変わる。ちょっと「藪の中」みたいな感じがすごく好きです。

そして全く違うタイプの兄弟のそれぞれの愛の形にさらにドキドキ。

…と、なるはずだったんだけどな。

れいちゃんと柴田作品、そしてマイティと柴田作品も、あまり合わないんだなぁ~と感じちゃいました。

れいちゃんは、ヒゲのビジュアルで柴田作品の大人の世界を作り込もうとしている努力は感じたし、上流階級の因習に縛られて思うようには生きることのできない内省的な青年の孤独を作り上げることに成功もしてたと思います。

ただし、それはファンやあるいは初めてキラキラの宝塚に触れようと思った全国ツアーのお客さんが見たい姿ではなかったのでは?

年齢層高めのビジュアルと演技で大人の男を演出する必要はあまりなかったように思うんだけれど。

だって苦悩する若く美しいれいちゃんなんて、想像しただけでも最強じゃない?

マイティは弟感を出すためでしょうか?表現が少し幼すぎたように思います。

自由人で遊び慣れてもいるはずの大人の男が兄の愛する女性とわかっていながらどうしようもなく深い恋の沼にはまっていく。というのがツボなのですが。

無邪気な若者ゆえの考えの至らなさに見えてしまうと、ちょっと私好みの解釈ではなかったような。

もっとも私が初演でこの役を演じたのがミッキー(順みつき)ということを知っていたのがいけなかったのかもしれません。

もちろん初演を観てるわけではないのです。

ただサヨナラ公演「霧深きエルベのほとり」は観ているので、わざと悪ぶって見せるカール役のミッキーの面影をどうしても思い描いてしまう。

そして「情熱のバルセロナ」や「エストレリータ」をスカステ放送で知って、主人公と同じ女性を愛する野性的な男性ってミッキー十八番だよなぁってついつい想像を巡らしてしまった。

そもそも、「れいマイ」とヨーロッパの古い映画に出てくるような大人の男の微妙な「たゆたい」ってどうもしっくりこないのかもしれません。

たゆたう(揺蕩う)という言葉がもはや死語だよね。いまやほとんどの人が意味わからんよね。

ふらふら気持ちが定まらない男の姿に色気を感じるというのは、令和の今となってはあり得ない感情なのでしょう。

柴田作品に慣れていない若いファンの方たちが、この作品を見てなんだかなぁ~って思っちゃうのはもうしょうがないのかぁ。

だから、どんなに演者が頑張ったところで全国ツアーにこの演目を選んだこと自体が最初からボタンをかけ違えてしまったような収まりの悪さを生んでしまったようにも思います。

たとえ古典的なコスチュームプレイであれ、もっとケレン味のある物語のほうがれいちゃんにもマイティにもずっと似合うと思うわ。

とはいえ柴田作品は主演以外の娘役さんに良い役が多いというのがとっても嬉しい!

まずなんといってもアンジェラ♪みさきちゃん(星空美咲)

アントニオを愛するいじらしさ、不安、いろんな想いをかかえた若く愛らしい令嬢です。

切ない時、不安な時、心配な時、つい眉根が寄ってしまう癖はちょっと気になるかな。男役さんだと眉間のシワは色気の源なんだけど。

その技量にはもはや何の不足もないのだけれど、どこか遠慮がちでまだ気持ちが全開放できていない気がするんだけど。

そういう殻やキャラもスパッと一新できるきっかけって…やっぱり組替えかしらね?

さてどうなるのかしら?

マチルド♪みおんちゃん(咲乃深音)はこういう色っぽい女性って初めて?

共にいても愛する人の心は別のところにあることが分かっている苦しさ。それでも離れられない切なさ。

まさに柴田作品のいい女!とっても素敵でした。

酒場の売れっ子マッダレーナ♪こはるちゃん(湖春ひめ花)は意外な配役。

これまで子役が多かった小柄な娘役さんですが歌も芝居も色っぽくてびっくりです。芝居力がさらに向上すればまさにポスト音くり寿ですね。

セレーナ♪みこちゃん(愛蘭みこ)が今回の子役。

物怖じしないおしゃまさんで可愛かった~。天性の愛らしさ!

お姉さまのルチア♪うららさん(春妃うらら)はおっとりと美しい。

古き良き上流階級の鷹揚さをふんわりと表現していて、これぞまさに柴田作品の美と品格です。

さてさて、次回大劇場は柴田作品「うたかたの恋」なのですが、どうなるのでしょうか。

先行画像やポスターのれいちゃんの瞳の強さは今まで見たことのないルドルフで、新たな物語を感じます。

少しひねりがありそうな予感。

こういうトリッキーなほうが絶対れいちゃんに似合うと思うの。

楽しみに待ちましょう!

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