「蒼穹の昴」観劇感想6 忘れられない人たち(ほんの一部)

【2022-12-04,25】
観劇・LIVE配信感想

本当だったら今頃は星組公演の感想をボチボチと綴っていたはずなんですが、私のただ一枚のチケットははかなく消えてしまいました。

でも星組再開はとってもうれしい!どうか最後までご無事で。

新人公演は無理そうだけれど千穐楽の配信は見るよ!

そんなわけで今年初観劇がいまだ迎えられられないこともあり、心はいまだ蒼穹の中におります。

だって魅力的な人たちがまだまだいっぱいいるんだもん。

順桂♪そらくん(和希そら)

そらくんの順桂を観ててふと玲瓏という言葉が思い浮かびました

冴え冴えと美しい宝玉、またはそれらが触れ合って美しく鳴るさまを意味する言葉だそうです。もしかしたら中国の美女を形容する言葉なのかもしれませんが。

でもそらくんの一点の曇りもない強い瞳を見てると、ひんやりと冷たく透き通る宝玉が思い浮かんで、「あー美しい、なんて美しい」ってひたすら見惚れてしまいました。

低く響く歌声には全く角がなくて、それはまるで大きな宝玉が触れ合って鳴るかのようです。

順桂はそんな神秘的な宝玉のようにミステリアス。

どこか近寄りがたいのは科挙の同期の中で彼一人が満州旗人ということもあるのかもしれません。

清は満州人による征服国家。科挙などの制度を取り入れ漢民族と折り合いをつけてはいるけれど、やはり上に立つものとしてのプライドや独特の価値観があるのではないかしら。

だから目指すゴールが文秀たちと少し違うと思うのです。

原作に書かれた葉赫那拉の呪いについては言及されていないので順桂のテロ行為は見る人によっては少し唐突に思えたのかもしれません。

でもこの芝居においてはそんな言い伝えに囚われたのではなく、もちろん阿片に惑わされたのでもない。

韃靼の誇りにかけて我が民族の不始末は自分の手でけじめをつけるという彼自身の強い意志が表現されていたように思えます。

一族の教えによる呪縛が描かれるよりもむしろその方が好みだわ!

ところでこの「蒼穹の昴」における松井るみさんの装置はどれも素晴らしかったのだけれど、実は一番印象に残ったのがこのテロ場面なんですよね。

阿片窟の紗幕がスパンと落ちて西太后の行列が現れるシーン。

舞台装置はまったくなく、背景にも何も映し出されていないガランドウの空間なのだけれど、まるで真夏の陽炎に見た白日夢のようでものすごく強烈だった。

なにもないからこそ都の大路の広さや何百人ものお供を従えた大行列、そしてそのすべてを圧するような西太后の威容が感じられました。

あれには息を呑んだわ。思わず民衆と一緒に平伏しそうになったわよ。

それまでの装置の壮麗さがあればこそ、この無の空間が印象に残る。

ここを含めて今回の装置設計は本当に素晴らしい!

そして爆発の瞬間、照明が白飛びする効果も見事だったわ。

西太后♪ひろさん(一樹千尋)

舞台化にあたり浅田次郎さんからのリクエストには西太后を悪者として描かないというのがあったのだそうです。

まぁ、軍事費使い込んで頤和園作っちゃったりと国のことは何一つ考えちゃないのですが、それは専制君主国家においてむしろ当たり前のこと。

ベルサイユ宮殿とかノイシュバンシュタイン城とかさ、古今東西いくらでもあるよね。西洋の王たちだって国とか国民などという概念はなかった。

西太后にとって政治とはずっと紫禁城の中の権力闘争でしかなかったのだから、ましてや満族でもない漢民族がどうなろうが知るよしもないのは当然だわ。

彼女の世に広まった悪評は外国人記者と脳天気な皇族載沢♪さんちゃん(咲城けい)の口からでまかせゴシップソングに出てくるのみです。

それでも紫禁城で厳然たる権力を持っていることは一目瞭然の女傑でした。

ことさら悪と描かれてはいないけれど、国や国民という概念を持つ変法派の若者たちに “この女さえいなくなれば” と思わせるだけの圧と陰惨はにじみ出ていたわ。

それと同時にほんの限られた人にだけふと見せる慈愛の表情がさすがのうまさなんです。

彼女にとって最も大切なのは国などではなく一族のこれまで通りの繁栄と継続。つまりは甥の光緒帝♪あがちん(縣千)なのね。

けれども同時に未熟で優しくて孤独な彼の肩に滅びゆく清という重荷を背負わせられない。ならばいっそのこと…というジレンマもあったのでしょう。複雑怪奇だなぁ~。

だけど西太后は私と同じ黒牡丹推しなのでね。どうしたって憎めないのよ。

李鴻章♪カチャさん(凪七瑠海)

出演者が発表された時、西太后は絶対にカチャさん!って思いこんでたのでポスターのお髭の李鴻章を見てびっくり。

カチャの西太后も観てみたかったな~。

慈愛よりも妖艶さのほうが勝っちゃうかしら。

それも素敵だったのでは?とも思うけど、浅田次郎さんの西太后を悪女とはしないという条件とは違ってきちゃうのかも。

というわけでまさかの李鴻章でしたがすごく素敵でした。

王逸♪いちかっち(一禾あお)と激論を交わす場面でのカチャの声の響きが素晴らしかったわ。

どちらかと言えば細くて高いと思ってたカチャの声。

でも声の低さって思ったほど男役の要素としては重要ではないのね。

今だってけっして低音ボイスではないのだけれど、血気盛んな王逸の声と比べれば圧倒的に大人。まさに男盛りの豊かさ。

いちかっちもとても良い声の持ち主ではあるのだけれど、これほどまでに深さや響きが違うのか!とちょっとびっくりしました。

日清戦争もフィナーレもめちゃくちゃかっこよかった!

現役バリバリの色気と同時に尊敬すべき人生の師としての側面も有していて、いやぁ~カチャがこんなタイプの男役になるとは4、5年前でさえ思いもしなかったわ。

「さがれ!下郎!」はこの芝居で一番痛快で、そして一度は声に出して言ってみたい日本語です!

全国ツアーも楽しみだなぁ。観に行けないけれど配信は見たい!

安徳海♪つばさくん(天月翼)

スチールが出た時にTwitterのタイムラインが安徳海で埋まりましたっけ。

だってつばさくんとは全くわからないんだもん。

パーフェクトな老けメイクももちろん素晴らしいけれど、観劇して一番感心したのはそのセリフ回しです。

サ行かな?微妙にフガフガしてる!

きっともう歯がないのですね。

でももちろん何を言っているのかセリフはちゃんとわかるという不思議。

けれどもやっぱり、つばさくんとはわからない~。

やせ細って、歯もなくて、目も見えなくて。

完璧に年老いた物乞いです。

こういうディテールがリアルだからこそ物語の世界に没入できたのでしょう。

ちなみに安徳海と春児の中の人は同期。びっくりだわ。

もしかして段祺瑞?♪るいくん(眞ノ宮るい)

るいくんは黒牡丹の他にも何役か演じています。

紫禁城の官吏、市場の龍舞の男、淮軍兵士。あとテロの時の民衆も演じていたことに2回めの観劇で気がついたんだけれど、そこは背中しか見えなかったわ。

「黒牡丹はなぜおらぬ!」と西太后が叱責する場面の下手花道付け根に官吏としてるいくんがいるんだよね。黒牡丹そこにいますよ~!

栄禄♪まりんさん(悠真倫)が戻って来た時にはすぐ横を通り過ぎる栄禄にめちゃくちゃビビっていました。

どうやら彼と因縁があると思われます。紫禁城の権力闘争。怖いな。

市場の龍舞で玉を掲げて踊る姿はスキッと美しくて見惚れました。

音も無くまるで宙に浮かぶよう。

さすが都の龍舞はすごく洗練されているわぁ。

黒牡丹の出番が終わると袁世凱♪まなはる(真那春人)の部下に転生です。

日清戦争では袁世凱のすぐ横。

この場面のセリの使い方、すごく迫力ありました。せり上がるあきちゃん(叶ゆうり)には誰だってかなわないわ!

淮軍兵士♪ナナちゃん(沙羅アンナ)は戦死したのかなぁ。すがりつくナナちゃんを容赦なく足蹴にする袁世凱。酷いわ。

大人数が必要な戦闘場面では娘役さんたちも兵士として大活躍です。超絶ダンサー揃いなので動きが凛々しく、しばらく娘役さんとは気が付きませんでした。

るいくんは脇腹を負傷していたようですが、どうやら生き延びたよう。

その後も袁世凱の傍らで訪れた文秀を取り次いだり狙撃しようとしたりと副官といった感じの将校です。

というわけで、彼はもしかして段祺瑞ではないかとTwitterで推測されていました。

調べてみたらドイツ留学の経験もある超優秀な軍人。後には北洋の虎と称されたんだそう。

年配となってからの写真を見ましたがなかなかの美丈夫です。若い頃はイケメンだったのでは?

処刑場面では譚嗣同♪すわっち(諏訪さき)を容赦なく跪かせていて、ここではきわちゃん(朝月希和)見て泣くし、すわっちの歌を聞いて泣くし、るいくんの美しくも冷酷なお顔を見てひょぇ~~~~となるしで大忙しでした。

東安市場の男♪よっしー(蒼波黎也)

阿片窟で順桂に爆弾を手渡す男。といっても芝居ではなくすべて踊りで表現しています。

そらくんをダンスで翻弄する役を研究科5年にして演じるというのは大抜擢!

これまで新人公演で圧のある悪役を演じてきたよっしーだけあって表情がめちゃくちゃ恐ろしかった。

恐ろしいのだけれど身体の動きはすごく流麗なの。しなやかで美しい。

それがまた人であらざるもののような気がしてなんとも言えず恐怖を覚えさせます。

まるで黒い怨念に吸い寄せられるように目が離せなくなりました。

なるほど確かにこれは阿片に惑わされたと感じた方がいらしたのも無理はないのかもしれません。

でもすごく印象に残りました。凄かったです。

まだまだ魅力的な人たちがいっぱいなんだけれど、もう筆力と気力の限界だわ~。

でもひとつの作品で6つも記録したのって初めてじゃないかしら?

それだけいつまでも忘れられない、本当に素晴らしい作品でした。

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