「HOT EYES!!」大階段の何がいけなかったのだろう「オペラ・トロピカル」と比較して

【2016-03-06】
スカステ視聴記録

ショー「HOT EYES!!」

残念ながら演者の背後で最初から最後まで光りまくる大階段が邪魔でしょうがなかった。

大階段出しっぱなしということはつまり、

セリも盆回しも使えない

大階段上ではバリバリ踊ることは出来ない。

めいっぱい踊れるスペースは舞台の前半分しかない。

ということなのです。

これで見応えのあるショーを作るというのは至難の業です。

しかし前にも何回か書いたことがありますが私が宝塚にそして花組にはまるキッカケを作ったのが「オペラ・トロピカル」

当時子どもだった藤井大介先生も観たという伝説の大階段出しっぱなしショー。

ところが思い出す限り「オペラ・トロピカル」にはそんな制限はまるで感じられなかった。

大階段は確かにずっとあった。

それなのに、大階段が邪魔だ!!とか踊る場所が半分じゃないか!!とかそんなことは思いもしなかった。

それどころかダンスの躍動感や舞台全体から放たれる迫力に圧倒された記憶が蘇ります。

特に花組男役の群舞に心奪われ、以降花組ファンとなった忘れられない作品なのです。

「HOT EYES!!」と「オペラ・トロピカル」の何がそんなに違っていたのか。

スカイステージで「オペラ・トロピカル」の放送があり「HOT EYES!!」の大階段の何が間違いだったのかが、ちょっと判ったような気がしました。

通常、舞台袖にある陰段は大階段の一番上に出られるだけですが「オペラ・トロピカル」では大階段の中ほどにも出られるよう陰段が左右に何箇所か用意されていて、まるで袖から舞台に飛び出してくるように大階段の中ほど、右からも左からも人がいっきに現れます。

つまり「オペラ・トロピカル」においての大階段はいつもの演者が上から降りてくる、または下からのぼるだけの使い方だけではなく舞台の床と同じ使い方をしている時があるのです。

また、照明によって舞台上の人の影が舞台の床に落ちる影と同様長く大階段の上に落ちるように工夫されています。

一言で表すなら

ものすごく急な八百屋舞台といってもいいでしょう。

八百屋舞台の効果。

それは遠近法で奥行きが強調されると同時に奥から迫ってくるようなダイナミックな迫力を観客に与えることができるということ。

ところが「HOT EYES!!」は残念ながら、この大切な遠近法を無視していることにより舞台の奥行きを台無しにしているのです。

大階段に描かれた模様。

階段の上半分が上方向に放射状に描かれています。

1点消失の遠近法のまるで逆をいく模様です。

「オペラ・トロピカル」と「HOT EYES!!」の階段の違いをざっくりですが絵にしてみました。

同じ階段の大きさ、、同じ人の配置なのに奥行きの違いが感じられると思います。

これでは舞台の真ん中に巨大な壁が置かれているのと同じ。

舞台の奥行きは半分になってしまいます。

これが一場面だけなら、なかなかインパクト大で、まぁ、ありかな~と、許せますが、最初から最後まで、ドドーンと置かれているのですから・・・

そりゃぁ、邪魔だわ。

しかもそのうえ、大階段の前にさらに踊り場のような小階段までが常設されているのだ。

視覚的邪魔の上に物理的邪魔を重ねるという、とんでもなく鬱陶しい状態に。。。。うぅぅぅ。

そして、階段をヒットパレード形式で上から歌いながら降りてくるばかりの舞台構成。

夜のヒットスタジオ(古い!!)ですか?

大階段といえは、せめて最後に黒燕尾でもあればね。少しは気が晴れるのに。

一方で「オペラ・トロピカル」における大階段の使い方は八百屋舞台だけにはとどまりません。

階段の照明をイナズマに光らせて背景として大階段を使用したり、抽象的な家々のパネルを配して、まるでリオデジャネイロのファベーラのような急斜面にへばりつく迷宮を作り出したり。

もちろんオーソドックスな大階段の使い方であるパレードも中詰めに用意されています。

せり上がりはなくてもトップスターのミッキー(順みつき)はせり上がりの位置まで大階段を一気に駆け上がって行きます。

「オペラ・トロピカル」の演出は草野旦先生。

草野先生は鴨川清作先生のお弟子さんにあたります。

鴨川先生の代表作のひとつがあの「ノバ・ボサ・ノバ」

八百屋舞台のラテンショーの名作ですね。

もちろん、八百屋舞台には危険が伴います。

平地と同じ様に演じるには相当ハードな訓練が必要です。

まして、ダンスなど・・・

腰や足に相当な負荷がかかるこのような演目は取り返しのつかない怪我をする危険性さえあります。

「オペラ・トロピカル」はあのハードなことで有名な「ノバ・ボサ・ノバ」よりも更に急勾配の八百屋舞台を使い、装置・照明・演出のさまざまな工夫を加え、その上に演者の並外れた情熱と気迫で作り上げた

奇跡の傑作ショーだったのです。

だからこそあれだけの迫力が生まれたわけなのです。

労働管理が昔より厳しくなった今、演者の安全 を考えれば、とてもじゃないけど、上演できるような演目ではありません。

子どもの頃に観た大階段出しっぱなしのショーを自分でもやってみたかった。

その気持はわかります。

それほど「オペラ・トロピカル」は忘れられないショーでした。

しかし「オペラ・トロピカル」を超えるような傑作を作ることなど今の労働管理上もはや不可能なのですから、大階段だしっぱなしの作品などやはり、やるべきではないと思います。

舞台は人でつくり上げるもの。

あの素晴らしい舞台はコンピュータ制御の大階段の照明機構程度で超えられるものでは到底ないのです。

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