観劇感想
これまでは見る前に原作を読まないようにしてきたのです。
だって観てて「あー原作ではこうだったのに~」なんて思いたくなじゃないですか。
芝居は芝居、原作とは別物と思っているので前情報なしで観劇したい。
でも今回はウィットに富んだ会話劇。しかもオスカー・ワイルド。
なんか面白そう。
読んでおいてもいいかも~と珍しく事前に原作を読んでの舞台鑑賞となりました。
芝居の流れや主要キャラクターの設定に関しては原作とほぼ同じでしたね。
でも、ただ一人、原作から大きく書き換えられた人物がいました。
それは、りらちゃん(紫りら)が演じたローラ・チーヴリー。
原作でのローラは高価な腕輪を盗むなど昔から手癖も悪く、相当な悪女として書かれています。
悪女ローラは腕輪の窃盗の証拠を突きつけられたことで脅迫の切り札の手紙を手放さざるを得なくなる。
戯曲を読んだ時にはその攻防がなかなかスリリングだったのですが、今回の芝居においては腕輪がらみのエピソードはばっさりカット。
脅迫を脅迫で反撃するのではなく、紳士と淑女のゲームすなわち賭けによって決着をつけるように書き換えられていました。
でも、そこがとても良かった!
アーサー(瀬央ゆりあ)との賭けに打って出るローラの大胆さがとてもかっこいいのだ。
そもそも彼女がロバート(綺城ひか理)を脅迫した目的って、詐欺まがいの投資話というよりもむしろガートルード(小桜ほのか)に対する敵愾心のほうが大きかったんじゃないかなぁ。
ローラは女学校の昔からガートルードのこと大嫌いだよね。
自分が持っていない全てを持っている完璧で常に正しい女性。
ローラに婚約を破棄されたアーサーが一時期ガートルードに心惹かれてしまったことも、知っていたのか知らなかったのか。
それはわからないけれど、いや、知っていたからこそガートルードがアーサーに送った相談の手紙を不倫の証拠だと確信しちゃったのかもしれません。
この不倫の手紙を彼女の夫であるロバートに送りつければ、完璧なガートルード像を打ち砕くことが出来ます。
夫婦の仲が壊れたら賭けはローラの勝ち。
夫の不正の手紙
妻の不倫の手紙
2つの切り札を手にしたローラにとって、それは負けるはずのない賭けでした。
高潔であることを良しとする理想の夫婦にとって、どちらの手紙も許し難い裏切りであるはず。
まぁ、まさかね~。
ガートルードもロバートも真面目がすぎると常人には理解できないほど素っ頓狂だわよね~。
ロバートは幸せな勘違いをしちゃうし、ガートルードは初めてついた嘘を朗らかに認めることで完璧という鎧を取り払う。
そんな番狂わせな展開で亀裂どころかお互いの弱さをも愛し、さらに深く結びついていく夫婦。
賭けに敗れたローラは悪あがきすることなくロバートの不正の証拠の手紙を渡し、去っていきます。
その潔さはきっとアーサーとの賭け自体が、詐欺まがいのアルゼンチン運河投資話で儲けることや、ガートルードを貶めて優越感に浸ることよりも、彼女の心を高揚させるものだったから。じゃないかしら?
もともと似た者同士だったように思えるローラとアーサー。
あの時3日で婚約を破棄しなければ、二人で生きる毎日はきっとスリリングでヒリヒリした、そう、ゲーム(賭け)のようなものになったはず。
そんなあったかもしれないifが一瞬ローラの脳裏によぎったのかもしれません。
しかし、いまさらアーサーをウィーンに誘っても彼の心はもはや遠くにあります。
「…でしょうね。」
そうつぶやいた時の寂しさと強かさが混ざったなんともいえない美しい微笑み。
きりりと顔を上げ、去っていく後ろ姿に思わず
「りらちゃん。かっこいい!」
って心の中で唸ったわ。
賭けの高揚の後の虚しさと孤独の中で、この先ローラはどう生きていくのだろう。
そんなこともふと心によぎり、胸が切なくなりました。
原作とは違うローラの複雑な心理と生き様を、素晴らしい演技と明瞭な声で作り上げたりらちゃん。
見事でした。
この作品、登場する主要な3人の女性のうち誰をヒロインと感じるかは、観る人によって違ってくるのではないかと思います。
(宝塚の人事的なヒロインではなく物語としてのヒロインという意味よ。)
私にとってこの物語のヒロインは間違いなく、りらちゃんが演じたローラ・チーヴリーでした!
りらちゃんは実はこれまでヒロインを演じたことがない役者さんです。
今回のローラも休演したはるこさん(音波みのり)の代役ではありますが、それでも、りらちゃんがヒロインだわ~と感じました。
これはスターシステムが確立した宝塚においてすごいことだと思うわ。
もう、りらちゃんじゃなく、紫りら様ってお呼びしなくっちゃ!
りら様!惚れました!
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