「BONNIE & CLYDE」観劇感想2 ボニー編

【2023-02-15】
観劇感想

新トップコンビの旅立ちは伝説のギャングカップル「BONNIE & CLYDE」

ボニー&クライドといえば宝塚ファンなら荻田先生の「凍てついた明日」を思い起こすのでしょうが、残念ながら私はそのころブランクだったため観劇出来ず。

なのでそちらよりも映画「俺たちに明日はない」のほうが思い浮かびました。

さすがに1967年の劇場公開時には見ていませんが昔はちょくちょくテレビで放送されてましたっけ。淀川長治さんの日曜洋画劇場とか。

ストーリーの細かいことはまるで記憶に残ってないけれど、あの強烈なラストシーンだけはいまだに鮮明に覚えています。

車のシートに座ったままで既に絶命しているであろうボニーがその身にあび続ける銃弾の激しい衝撃によって激しくのたうち回る。

後に「死のダンス」と名付けられたあの姿は一度見たら忘れられないわよ。

性や暴力をリアルに描いたアメリカン・ニューシネマの先駆け的作品なんぞをお茶の間のテレビを囲んで家族みんなで見ている。そんな昭和の時代でしたわ。

甘いマスクのウォーレン・ベイティ(当時はウォーレン・ビーティって呼んでた)とクールオブビューティーなフェイ・ダナウェイが演じたボニー&クライドは新生雪組コンピにぴったりじゃない?

とはいえあのトラウマレベルの結末はどんなふうに描かれるんだろう。ちょっとビビリながら客席に。

幕開き、いきなり聞こえる激しい銃声。

ひょぇぇぇええ~~!まさかあの二人の最期から始まるの?

しかしフォードV8のシートに寄り添うようにして座る二人の姿は、まるで眠っているように美しく静謐で映画のラストとは対極にありました。

ほほぉ~。

誰もが知っている二人の凄惨な最期をアメリカン・ニューシネマの如くリアルに描くのではなく、バニシング・ポイントすなわち「消失点」のように最初に提示するのね。

あ、ちなみに「バニシング・ポイント」って私が小学生の時に叔父に連れられ映画館で見たアメリカン・ニューシネマのタイトルでもあります。

破滅の消失点に向かいアメリカの荒野を疾走するプロドライバーと彼を追う警察との攻防が過去と現在を織り交ぜて描かれた映画。

子供だから意味もわからず見ていたのに、なぜかものすごく惹きつけられたんですよね。

そんな話が小学生の頃から好きだったのか、それともこの映画を見たせいでこんな趣味嗜好になっちゃったのか…。

とにかくこのボニクラは冒頭に示されたこの消失点へと突き進んでいくんだわ!

それが破滅と心の奥ではわかっていながら、どうしようもなくそこに引きつけられていく物語が大好きなのです。

そしてその消失点を見据えていたのはトップスターが演じるクライドではなくボニー♪あやちゃん(夢白あや)というのが外箱で上演する海外ミュージカル作品ならではの面白さかもしれません。

ハリウッド女優と見紛うほどの美貌でありながら、のっけから「死ねばいい!」とか「クソクソクソッ!」って悪態をつくあやちゃんのヤサグレ具合に痺れました。

あぁ、ボニーはこんなにも美しいのに思い描いた未来ってどうしていつも手に入らないものなんだろう。いわんや凡人をや…ですよ。

そんな西ダラスでの淀んだ毎日を打ち破ってくれるのは自分のことを昔から知っているような幼なじみじゃないのだ。

テッド♪さんちゃん(咲城けい)が誘ったところでそれはクソみたいな日常の延長でしかない。まるでお呼びじゃないのよ。

というわけで見知らぬ男クライド♪さきちゃん(彩風咲奈)登場!

出会って数分の1曲歌い終わったところでキス。次のシーンでは早くも事後?の下着姿。

うん。そりゃぁしょうがない。だって、さきちゃんだもん。

自動車泥棒だろうが脱獄犯だろうが第一印象は翳りも闇もないお日様のような笑顔と愛嬌。かすかに漂う危険な香りもピリッと刺激的です。

チャーミングで誰だって一瞬で引き付けられちゃう。しかもイケメン。股下は3mだ!

クライドの脱獄を幇助、次は強盗幇助、そして強盗の実行犯へとエスカレートしていくに従いどんどん肝が座っていくあやちゃん。

まるでドキドキの初舞台から映画のヒロインのチャンスを掴み、そして華やかな人気女優へと変貌していく鮮やかさを見るようでした。

まさにスター誕生ではないですか!

もともと芝居の上手い娘役さんだとは思っていたけれど、これほどまでのポテンシャルを秘めていたとは!

お披露目にこの演目でこの演技。

あやちゃん只者ではないわ!

歌は私が観た公演前半は高音が少しかすれて、この地声っぽい歌い方で張り上げたら千秋楽まで持つかなって心配したのですが、LIVE配信では喉の力みを全く感じませんでした。

娘役さんらしいハイソプラノよりも少し低めの音域が元々の声に合っていたのかも。

それでも長い訓練が必要とされるミュージカル系の力強い歌い方で1ヶ月近く公演を行う経験は初めてのはずです。

おそらく公演中にどんどん進化して歌い方を掴んでいったんじゃないかしら?凄いなぁ。

ブロードウェイ・ミュージカルだけあって普段の演目とは違いボニーだけで歌うナンバーも多く、しかもどれもとても素晴らしかった。芝居の上手い人の歌って胸に響くわ。

特に「死ぬのも悪くはないわ」は圧巻でした。

二人は心も肉体も相性が良く、もう離れられないほど互いに強く惹かれ合ったのでしょう。

けれどもそう遠くはない未来に最期が訪れることをわかっていて、その瞬間まで一緒にいると覚悟を決めていたのはボニーのほうなのね。

「ボニー&クライドかクライド&ボニーか?」そんな他愛も無い会話がラストにも繰り返され運命のフォードV8に乗り込んだ二人の表情は柔らかく美しかったわ。

ここで芝居が終わるのが少し意外でしたが、とても良かった。蜂の巣の最期が描かれるよりずっと良い!

ドライブの行手に訪れるであろうあの消失点にフッと二人が消えてしまったような…そんな永遠が感じられる余韻のある終幕でした。

なんだか「テルマ&ルイーズ」のラストも思い出しちゃった。

あ、これは90年代の作品で女性版「俺たちに明日はない」なんて呼ばれたロード・ムービーです。この映画も好きなのよ。

と、いうわけで、幕が降りた時には不思議な爽快感がありました。フィナーレも最高だったし。

でも観ている最中はそりゃあもう色々と胸が苦しくって大変でしたよ。

途中からはママ♪あんこさん(杏野このみ)と気持ちが同調しちゃって、全力でボニーを引き止めながら観ていましたっけ。

あんこさん素晴らしくって最後にママと会うところでは涙が溢れたわ。

娘を思う母のシーンだけれど日本的お涙頂戴にはならず、でもしっかり気持ちが伝わる。

そして「この世に生きていると言えるのはクライドと私だけ」(記憶が曖昧なのでセリフはニュアンスですが)って言うあやちゃんの表情を見ていたら、なんか自分に言われたみたいにグサって胸に刺さっちゃった。

あたし、今、生きてるのかしら?って。

そう言われたらママ(←私の心の中のママね)はもう何にも言い返せないわ。

だって日がな一日会社でどーでもいいよーな仕事して、それで人生のほとんどが終わっちゃうんだって気づいたら切なくなっちゃったのよね。

一度きりの人生、たとえ破滅を招いても思うがまま生きてみたかったっていう後悔も身にしみるし、いいように搾取されている身としてはアウトローのかっこよさにノックアウトもされちゃう。

と同時に平凡でもつまんなくてもいいから無事でいて!っていうママの思いも押し寄せてくるから、もう身体の中で相反する感情が引っ張り合って2,3日はなかなか寝付けなかったわ。

その割にけっこう元気だったのは宝塚効果かしら?

あーぁ、人生の終わりが見えてくる年になると後悔することばかりね。

でもこうして名古屋まで行って素敵な舞台を観たり、最近はご無沙汰だけど時には映画も見たりして、自分が経験することが出来なかった人生や感情を疑似体験する喜びを知っているのはホント良かった。

何にもない毎日だけれど少しは幸せ。

「バニシング・ポイント」と「テルマ&ルイーズ」も、もう一度見たくなっちゃったな。

「BONNIE & CLYDE」の大切な記憶は上書きしたくないので「俺たちに明日はない」は遠慮しときまーす。

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