観劇感想
宝塚の舞台でもアウトローってすごく人気がありますよね。
そういえば「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」でさきちゃん(彩風咲奈)が演じたマックスも密売・強盗・殺人・爆破となかなかの反社っぷりでしたっけ。さすが雪組。
良い子は真似をしてはいけませんが、スーツにハット、鮮やかな手口で犯罪に手を染める姿はやっぱりかっこいい!
今回のボニー&クライドは映画にも描かれた実在のギャングカップル。
さきちゃんのクライドは人を引き付ける愛嬌とまっとうな人間ではないという狂気が絶妙なバランスで表現されていてとっても魅力的でした。
冒頭に提示されたフォードV8のシートに眠るように寄り添う姿はイメージ通りのスーツでしたが物語の時制が過去に戻るとカントリーボーイっぽい衣装です。
スタイリッシュなスーツもカッコいいけれど、この気のいいアンチャン風のラフな格好も人懐っこくてすごく可愛い!
クライドはテキサスの貧しい農家に生まれ、しかも流民同然の環境で育ったのですね。
伝説のアウトロー、ビリー・ザ・キッドに憧れているものの彼がどうなったかすら実はよく知らない男。
それは知識が無いというより“憧れのヒーローは無敵”って自分の都合のいいように解釈しちゃう幼稚さなのかもしれません。
自作の詩を朗読するボニー♪あやちゃん(夢白あや)に思いつくままチャチャを入れてしまう衝動性も子供っぽい。
それでいて口喧嘩になった時にはすぐ手をあげるマッチョな振る舞い。(それを「次はない」と秒で制すボニーがかっこいいのだ。)
働いている時に客の前で身体検査されたっていう話も、たしかセリフでは「盗んでない」とは言ってなかった気がするんだけど~。記憶違いかな。
つまり実のところ盗んではいるのかも。
無実なのに罪を着せられた…からではなく、公衆の面前での身体検査が自分に対する侮辱行為だから激怒しているわけか。
彼は侮辱されればもう脊髄反射的に怒りに火がついて、そしてそれをけっして許さないのだ。
とにかくあまり知的ではないし粗野な一面もある。よく考えてみればスタイリッシュとは程遠い欠点だらけの男です。
とはいえ、さきちゃんの隠しきれない足の長さに甘いマスク。クルンとした巻き毛にも母性本能をくすぐられちゃう。
知性の無さや粗暴な振る舞いすら可愛くてたまらない末っ子の男の子がそのままひょろ~っと背が伸びちゃった感じで、そのチャーミングさにあっという間に巻き込まれてしまった。
ついさっきまでヤンチャ感を見せていたかと思えば口元がとんでもなくセクシーだったりするので全く気が休まらないのよ。
今回ボニーのママ♪あんこさん(杏野このみ)の心情で観てた時もあるから、この男絶対近づいちゃダメ!って思うんだけれど、たまらなく魅力的。
ボニーの協力で再び脱獄を果たしたクライドはいよいよスーツにハットの粋なスタイルに変身!キャー!キター!
ボニー&クライド誕生の最高にごきげんなナンバーで1幕は終わります。
と、かっこいいギャング誕生!と思わせておいて、2幕冒頭で早々に男の弱さが露呈する構成なのがリアルですごく好き。
田舎の雑貨店にちょいと押し入って金を奪うだけの簡単な仕事。それはこれまで何度もやってきたチンケな強盗です。
でも思わぬ邪魔が入った。
雑貨店の異変に気づいたバド・ラッセル巡査♪るいくん(眞ノ宮るい)が飛び込んできてクライドと対峙。うぎゃぁぁ~~。
クライドは彼を撃ち殺し、宿で待つボニーの元へ逃げ帰ってきます。
ベッドにへたりこんでうなだれたまま「誰も傷つけるつもりはなかった。馬鹿な警官が入ってきて…撃たなきゃこっちが死んでいた」なんてオロオロ言い訳。
つまりは「あなたは全然悪くない」ってボニーに言ってほしいわけね!
しかもこういう男の常で言葉だけではなく身体で慰めてほしいわけね!
もうこの男最低よ!お願いだからママのところに帰ってきて~~!と心のなかで叫びつつ、やっぱりあらがえない魅力があるのも確かなんだよなぁ。
もう理性と感情でこの身が二つに引き裂かれる思いだったわ。
ホント“愛は選べない”のだ。一度は荷物をまとめて出ていったボニーもやはり彼の元に帰ってしまうんだもん。
しかも、るいくんまた舞台で死んじゃったよぉぉぉ。
それにしてもここでクライドがあんなにも狼狽していることがとても印象に残りました。
初めての人殺しではないのに。
クライドが犯した第一の殺人は刑務所で自分を凌辱した男に対する怒りと復讐。
でもそれは侮辱を許さない彼にとって正しい行いです。そういう彼の思考回路って働いている時の身体検査の話でも言及されていたのでよくわかる。
だから鉄パイプを握りしめ血まみれになりながら自らの手で殴り殺しても髪の毛一本ほどの罪の意識も感じなかった。
なのに自分に銃を向け発砲した巡査を撃ち殺した事にはどうしてあれほど動揺し、ボニーに救いを求めたのだろう。
実は最初に舞台を観た時、クライドとバド巡査ってどこかが二重写しの存在だわ!と感じたんです。
ほら、ふたりとも陽気だし、ちょっと考えなしだし、そしてめちゃくちゃ顔がいいし。
もしかしてクライドはまるで自分自身を撃ち殺してしまったような違和感でパニック状態になったんじゃないかしら。
対峙するバド巡査の懸命な目に内なる自分を見たような…そんなイメージかしら。まぁもちろん勝手な妄想です。
そしてここを境にしてクライドはその銃で人を殺しても動揺などしなくなりますよね。
傍らにはいつもボニーがいて、もう何も恐れなくなる。
この大きなターニングポイントとなるシーンにるいくんを配したのって、なんだかすごくわかるわぁ。黒牡丹もそういう役だったもん。
そうそう、クライドがバド巡査を撃った時って腕だけをまっすぐ彼に向けて伸ばし、顔は背けたままで引き金を引いているんですよ。それで胸に命中しちゃうなんてバドくんなんて運が悪いの~。
そしてその銃の撃ち方って終盤でもう一度繰り返されているんです。
傷ついたボニーとともに身を潜めた森の誰もいない暗闇に向けて何発か銃をぶっぱなすという印象的なシーン。
クライドはバド巡査を殺した時と同じように銃を向けた方からは顔を背けて撃っていました。その暗闇の中には「バンバーン」て子供の頃の自分が歌ってる。
未来があるはずだった少年クライド、明日も元気に生きるはずだったバド巡査。
目を背けつつどちらにも銃を撃ち放ったクライド。
そうやって過去も未来もすべて断ち切り、ただボニーと共にいる今だけを走り抜ける刹那の美しさになんだか鳥肌がたっちゃった。
シャツにズボン、肩からホルスターを装着した姿はスキッと禁欲的ですらあって、血なまぐさい話なんだけれど不思議と生々しくはなりすぎない。
この世界で生きているのは二人だけ。
ギャングカップルでありながら永遠の恋人同士として名が刻み込まれるにふさわしい純度100%のボニー&クライドだったわ。
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