「応天の門」「Deep Sea -海神たちのカルナバル」観劇感想

【2023-04-28】
観劇感想

実は初日開けてすぐに月組公演に行ったんですがすっかり記録を怠っていました。

原作のコミックは無料期間を利用して電子書籍で30話くらい読んだかしら。

久しぶりにコミックを読みましたが絵も美しく話も面白く、あっという間に読めるところまで行き着いちゃった。

続きが知りたいとは思うけどまだまだずっと続くのね。応天門の変も描かれるのかなぁ。応天門の変と言えばヤンさん(安寿ミラ)バウホール公演「あかねに燃ゆる君」で爆泣きした思い出が蘇るわ。

読んでもすぐに忘れる脳みそなので原作はこうだったとかああだったとかは何も思わず、舞台は舞台でとても楽しみました。

やっぱり私、田渕先生の作品とは相性が良いみたい。

人の心に生まれる闇は結局のところ科学や理性をもってしても解明できるものでは無い。

そういう人の世のままならなさというか、人の心の矛盾というか、物語の持つ割り切れなさが好きなんです。

結局のところズバッと解決というわけでもないto be continuedな幕切れもとてもよかった。

舞台背後にうごめく鬼たちの構図、すごく好きだわ。

菅原道真♪れいこちゃん(月城かなと)の美しいジト目も少年と言うにはちょっと老成した雰囲気も魑魅魍魎が跋扈する平安時代が舞台の世界観にぴったり。

原作ほど少年っぽくないところがむしろ好き。

大人の世界に子供?が首を突っ込んで事件を解決というコナン的サスペンスではなく、才はあってもまだまだ未熟な青年が実世界に触れてはじめて知る挫折とそこから続くであろう長い戦いの始まりの物語になっている。

そういうの好きなんですよ。「蒼穹の昴」の文秀のそんな感じにも胸が震えましたもん。

そしてなんといっても業平と高子がね。全部良かった!

高子様が昔からとにかく好きなの。

業平と引き裂かれた高子はその後なかなかのツッパった人生を送るのですが、高子♪じゅりちゃん(天紫珠李)はイメージにピッタリだったわ!

強くて脆くて気高く激しい女性が大好きなのだ。

在原業平♪ちなつさん(鳳月杏)は配役発表の時からすでに完璧って思っていたけれど、実際に舞台で動く姿を観たらもうとろけるようでした。

内裏に宮仕えの束帯ではなく検非違使のかっこいい装束で仕事はテキパキ。出来る男感満載。

そしてとにかくモテてモテてフェロモンがダダ漏れ状態。かっこいい!

それでいてただ一つの失った愛の痛みをずっと胸に抱いているところが禁欲的ですらあって、その大人の男のアンビバレンツ具合にゾクゾクしました。

若き日の業平♪うーちゃん(英かおと)と高子♪ゆうきちゃん(蘭世惠翔)の儚げな美しさはまるで夢か幻のようだったわ。うーちゃん色っぽかった。

「白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消なましものを」のシーンは絶対あると思っていたけれど最後に業平の歌「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」が出てくるとは予想外。不意をつかれて思わず涙がこぼれてしまった。

切ない。

どれほど浮名を流しても本当に結ばれたい人はただ一人なのに。もう会うことも言葉を交わすことさえ出来ない。その苦しさ。

クライムサスペンスの面白さだけではない「伊勢物語」の文学的香気と艶が物語に加わって、これぞ平安時代を舞台にした良さでした。

ここに基経♪おだちん(風間柚乃)と道真の兄の吉祥丸♪るおりあ(瑠皇りあ)の淡い交流が添えられているのもすごく印象的。

すべての権力を手に入れることを幼い頃から求められ運命づけられている基経。

何事にも抜かり無く、才もある。おそらく努力も惜しまなかったことでしょう。

しかし己が天才ではないことも知っている。それを知っているというのが既に十分に才があることではあるのだけれど。

そこに現れた美しい少年。

彼とて十分に才は有ったであろうに、なにせ弟が天才なんだよね。

けれどもその弟の才を喜び、そして誰よりも愛する心の清らかな吉祥丸。

鋭い基経は吉祥丸に何を見たのだろうか。

それはもうひとりの自分か。それとも、自分もこうありたかったという羨望か。

冷徹の奥にある小さなゆらぎを繊細に表現するおだちんに心揺さぶられました。

「Deep Sea」は真ん中のれいこちゃんがゆったりとスターっぷりを見せつけるラテンショーでした。

ちょっとレトロな感じが昔を思い起こすようで懐かしかったわ。

デュエットダンスがタンゴなのも好き。うみちゃん(海乃美月)とタンゴはよく似合う。

私が観たときのエトワールは咲彩いちごちゃん。

エトワール役替りっていろんな人の声が聞けるから観客としては嬉しいなと最初は思いました。

まぁ結局1回しか劇場に行けず配信も見られなかったので役替りの恩恵はまるで受けられなかった。無念。

けれどもふと思った。

オーディションで全員素晴らしく一人に絞りきれなくて役替りになったとのことですが、本人たちにしてみれば一人に任せられるだけの決め手が自分のどこになかったんだろうってモヤモヤしたんじゃないかしらって。

いやまぁ、芸の道はそんなにスパッと答えが出せるものじゃ無いし、短い期間だとしてもエトワールとして歌えるのはすごいことだけれど。

でもエトワールってそのショーの記憶と深く結びついているものだから、やっぱり最初から最後まで同じ人に任せて欲しいかな~。

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