「ライラックの夢路」観劇感想1

【2023-06-23】
観劇感想

脚本ってどこか俳句を思わせるような気がするって以前どこかに書いた記憶があるのですが。

事象や感情を綿密に描くことのできる小説と違い、芝居となって初めて完成となる脚本は文字だけで読んでみると意外にもボコボコ抜けてたりするのよ。

優れた脚本には空間や時間を含め展開がベーンと飛ぶような大胆なジャンプがあったりする。

その飛躍を芝居や舞台装置などの空間表現で疑問とも不思議とも思わせず、むしろ心地よいスピード感やラストのカタルシスへとつなげていくことって、たった17文字なのに季語が持つ力で世界が大きく広がっていく俳句と似ているような気がしたのです。

さて「ライラックの夢路」は物語に込められたテーマもストーリーもとても面白く、特に前半は引き込まれました。

ただラストに向かって盛り上がってほしい後半にどことなく疾走感や感情の高ぶりが欠けていたのはどうしてだろう?って考えた時に、この脚本の手法が俳句ではなく、むしろノンフィクションっぽいせいじゃないかなぁって思ったんです。

だって脚本の展開、特に資金調達のくだりはすごく丁寧に描かれているのよ。

人材確保して、設備投資して、更に鉄道事業まで手を広げるとなると当然資金不足になるわけで、そこから

  • S8-3 領地売却→全然足りない
  • S10 国の援助が欲しいなら武器を作れ→断固として拒否
  • S13-1 事業の株式化→官製より民間の力だ!
  • S14 関税同盟成立→だけどまだもうちょっと資金が足りない
  • S14〜15 女性事業主となったエリーゼからの投資→大団円!

と、ちゃ~んと段階を追ってきちんと整合性を持って描写されている。

一つ一つのプロセスの間にはそれなりの時間の経過もあって、だから演出の上でも場面と場面の間をしっかり開けて本当に正しく書かれているんだわ。

でもそういう整合性がかえって登場人物の感情の流れや観る側の盛り上がりを阻害してるんじゃなかしらん。って思った。

だってこの資金調達の合間に合間に

  • S8-2 末弟ヨーゼフの死
  • S9 亡父の過去の探索
  • S12 襲撃事件とその真相
  • S13-2 魔女の正体とアントンの刀自

などのドラマティックなエピソードがポツポツと挟まっている感じなんだもん。

もちろんノンフィクションだって読めばとても面白いし、だから少しずつ資金調達の道筋が進んでいくこの展開はなるほどな~って興味深くは見ていたのだけれど…。

そうそう、ちょうどスカステで「MUSICA×MUSIK Collection レトロ」の放送があって「Sensational 」のフィナーレの解説があったんですよね

フィナーレにはラストに向け盛り上がる構成となるようリズムの変化や展開がないといけない。

と、作曲家の青木朝子先生の談話が紹介されていて、これってショーだけでなくお芝居にも言えることだわ。

特に時間が短い1幕物の芝居はプロセスを順番に淡々と描くよりラストに向かっての変化や展開をもっと作って欲しかった。

柴田侑宏作品における「エル・アモール」みたいなハインドリッヒ・エリーゼ・フランツ・ディートリンデの思いが交錯する歌を後半に聞きたかったよ。

じゃなければ太田哲則作品みたいにそれぞれの思いを別メロディで歌う五重奏とかがあればなぁ。レミゼの「ワン・デイ・モア」みたいな感じで。

ハインドリッヒ・エリーゼが明るいメインメロディをハモって、フランツ・ディートリンデが苦しい胸の内を別メロディでかぶせるの。そこに鉄職人や事業家のオジサマ達の未来への希望を歌う力強いコーラスもつけてね。

あ、コーラスはむしろ夢人のほうかしら。うーん迷うな。そうだ!夢人には美しくオブリガートをつけてもらうのがいいわ!などと、いろいろ妄想しちゃった。

いやいや歌じゃなくても謝珠栄先生は素晴らしい振付家。4人の葛藤のダンスシーンとかあったらもう絶対ドラマティックじゃない?

歌やダンスってまるで季語。いろんな要素や背景がその中にギュッと詰まっていて観客の感情を揺さぶり広げてくれる。

その力を使って俳句のようにベーンと筋道が飛んでもいいじゃない。わっと盛り上がる展開が芝居のクライマックスにはあって欲しいんだもん。

曲はどれも素晴らしかったしラストに向かっての心情を爆発させる大ナンバーが観たかったよ〜って思うのは私が謝先生の意図した主題を見誤っているせいなのかもしれないけれど…。

「ライラックの夢路」は本当に美しい物語でした。

兄弟の絆。夢を持つがゆえの苦悩。ままならない想い。ささやかな庶民の暮らしなどなど。どれも心に染みる温かいストーリー。とてもとても好きです。

だからあとほんの少し、盛り上がる要素が後半にあれば、この物語の感動がより多くの観客の心にもっともっと届くようになったんじゃないかって、ちょっぴりもったいなくも思ったのでした。

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