想いつれづれ
6月10日、羽山紀代美先生が師である喜多弘先生のもとへと旅立たれてしまった。
昨年末「蒼穹の昴」のフィナーレに圧倒されたばかりだったのに。
まだまだずっと宝塚の振付をしてくださると疑いもなく思っていたのに。
こんなに突然のお別れが来てしまうだなんて思ってもみなかった。
なんの関わりもない1ファンの私ですらショックなのに、共に舞台を作り上げてきた方たちの悲しみはいかばかりでしょう。
なにより御本人がまだまだお若くて、110周年だってその次だって、宝塚の醍醐味を感じられる素敵な振付の構想がお有りになったに違いないのに。
悔しいしとても悲しい。
羽山紀代美というお名前を意識するようになったのはいつからだっただろうか。
もちろん私が宝塚を観始めた頃はもう既に退団されていて舞台姿を拝見したことはないです。
宝塚を観るようになって、ダンスを見るのが大好きになって、あぁこのシーンすごく好きだなぁって感動して、いつしか振付家の名前も意識するようになりました。
そう、きっかけは「ヒート・ウエーブ」だったわ!
まおさん(大地真央)退団公演。1985年、宝塚を観始めて2、3年が経った頃でした。
当時、劇団スタッフと言えば男性ばかり。
ぴんちゃん(みさとけい・日比野桃子さん)がジェンヌさんから演出助手に転身されたけれどもほどなくして退団。その後は植田景子先生が入団するまで女性演出家は生まれなかった。
音楽担当は吉田優子先生がただ一人いらっしゃって、まおさんプレお披露目バウホールの「シブーレット」が作曲家デビューでしたね。
でも振付に関してはOG、外部含めてたくさんの女性が宝塚に関わってくださっていました。
「ヒート・ウエーブ」は女性の振付家だけですべてを担当する。と、当時とても話題になっていたかと思います。まだそれすら珍しい時代だったんです。
そんなわけで遅まきながら初めて振付家という存在に気がついた。というわけ。
担当されたのは
- 羽山紀代美
- 謝珠栄
- 名倉加代子
- 朱里みさを (敬称略)
「ヒート・ウエーブ」は振付家それぞれの個性が存分に生かされた素晴らしいショーでした。
なかでも私の心を一番つかんだのがコットンクラブの場面。
羽山先生の振付でした。
まおさんの気だるい「Minnie The Moocher」から始まって、男女カップルの緊迫したデュエットダンス。そしてバーカウンターから次々ダンサーが降りてくる大盛りあがりの「SHAKE THIS CITY」まで息をもつかせぬダンスパフォーマンス。
30周年記念ダンシング・リサイタル 「ゴールデン・ステップス」でもあさこさん(瀬奈じゅん)で再演されてますね。きっと近々放送があると思う。
羽山先生おなじみの指をスナップさせながら屈伸する振付(伝わる?)はもちろんふんだんに。
それから「ル・ポアゾン」オープニングにもあった娘役さんのバックハグで左右に揺れる胸がギュッと締め付けられるような振付も。
バーカウンターから次々降りてくるのは近年では「アクアヴィーテ」で再現されてましたね。
とにかくすべてが濃厚で情熱的で、クールでカッコよくて。脳天ガツンとかち割られたくらいの衝撃を受けました。
プログラムを見返して「ヒート・ウエーブ」のプロローグも羽山先生ということに気がついたっけ。
こちらはギラギラのラテン。
舞台奥から斜め方向にステップしていく、これまた羽山先生おなじみのフォーメーション。あれ大好き!
みねちゃん(峰さを理)お披露目で再演となったショー「ザ・ストーム」でも「風に吹かれて」という裸足のラテンダンスがあったわ。あれも名振付だったなぁ。
以来、羽山紀代美というお名前はトキメキの対象となったのです。
そんな濃厚なジャズダンスや喜多先生譲りの激しいラテンも素晴らしいのだけれど、羽山先生と言えばやっぱり大階段黒燕尾。
燕尾では一転、ぐっと抑えた振付になるのがまた堪らないのですよ。
なつめさん(大浦みずき)の「ベルサイユのばら-フェルゼン編-」フィナーレの感動は今でも忘れられない。
大階段を粛々と降りてくる男役達。静かにゆっくりと三角の隊形に変化していくのが厳かだった。
そしてこの上もなく完璧なポーズでせり上がるなつめさん。
流れるようなシェネに美しく翻るテール。
あえて背中をゆっくりと見せるポーズ。
私にとって至高の黒燕尾がそこにありました。
まゆさん(蘭寿とむ)退団公演の「TAKARAZUKA夢∞眩」フィナーレの黒燕尾も羽山先生でしたね。
齋藤吉正先生のゴチャッとしがちなショーを見事に締めたオーソドックスな黒燕尾なんだけど、ラストのアップテンポになった時に一転にぎやかな動きになるのがこの作品のツボをすごく押さえていると思いました。
黒燕尾じゃないけれど「タカラヅカ・ドリーム・キングダム」夢燕尾の片足だけをトンっと引き上げる振付もすごく印象的だったよなぁ。
カチッと上半身のスクエアを崩さないのが燕尾本来の美しさ。
身体ではなく周りの空気を動かすような、静寂の中から情熱がほとばしるような、そんな大階段の燕尾のダンスに何度心が震えたことでしょう。
あぁ。もう思い出したら書ききれないほどの素晴らしいシーンの数々が蘇る。
残された沢山の振付はこれからも大切に踊りつがれていくと思うけれど、新しい作品、そして未来の初舞台生のラインダンスを指導される映像をもう見ることが出来ないのかと思うと本当に悲しいです。
次の大劇場の花組も振付されていたのですね。
最後まで現役を貫いたその姿はきっと多くの関わりのあった方たちの目に焼き付いていることでしょう。
羽山スピリットは永遠です。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
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