【2023-07-16】
観劇・LIVE配信感想
「ライラックの夢路」は装置や舞台転換も素敵でした。
鉄モチーフの装置って好きなのよ。「アイ・ラブ・アインシュタイン」とかフレンチロックミュージカルの「赤と黒」とか。
鈍色の重厚な、でもどこか温かみのある感じがとてもよきです。
舞台転換ではドロイゼン家から酒場クナイペに変わる盆回りがお気に入り。
クナイペに集う労働者達がストップモーションのまま盆回りしてきて、明転とともに陽気に動き出すの。
ずらっと横に並んだ椅子を使って踊るのがショーでの愉快なダンスシーンみたいで楽しい!
鉄工所への場面転換も良かったな。
ビールジョッキで乾杯する金属音が錬鉄を行う職人のハンマーの音へと変わっていく効果が心憎かったわ。
クリスマスの町中のシーンも躍動感に溢れていました。
スケートの少年たちをダンスで表現していたり、東京から加わったという赤と緑の衣装の研一さんによる鼓笛隊もクリスマスらしくて可愛らしい。
冬の風物詩という感じがよく出ていました。
そんないわば名もなき労働者や庶民の生活が、楽しいことも苦しいことも含めて生き生きと活写されているのが芝居のテーマの表現としてもミュージカルシーンとしてもとても好きでした。
鉄工所の職人たちがそれぞれ個性を発揮していましたね。
「飲んでません。飲まれてま~~す」といつもご機嫌なミハエル♪るいくん(眞ノ宮るい)とヒゲモジャのカール♪つばさくん(天月翼)がいい味。
突如工場に現れた令嬢エリーゼ♪あやちゃん(夢白あや)に猛烈アピールする様子が毎日Twitterに流れてきて、読むのが楽しみでした。
二人でハートを作ったり、命!のポーズとか、キャイ~ンのポーズとか。微妙に古いギャグで気を引こうとしてたようです。
鉄工所の中ではおそらく古参のこの二人。ついついオヤジギャグを連発してしまうオジサン的な立ち位置なのかも~。
関税同盟のことも学の無い労働者階級ではわかったようなわかんないようなっていう感じなのでしょう。
ミハエルくん、ある日は字が読めなくて新聞を逆さにしてたり、ある日は記事を得意げに音読していたそうです。ちゃんと正しく読めているかどうかはかなりあやしいですが。愛おしいわ~。
まぁ難しいことはわかんなくても、とにかくこの先、戦争に駆り出されることも農奴として搾取されることもなく仕事を続けられるという喜びで沸き立っている。
「ガッポガッポ…飲むぞ~」
っていうちょっぴり素っ頓狂で豪快なカールおいたんの宣言がこの芝居のセリフの中で一番好き!
鉄工所の仕事は熱いし重労働だけれど、懸命に働いて稼いで、仕事終わりには美味しいビールをたらふく飲んで。
庶民にそんな豊かさをもたらすこともハインドリッヒが目指している近代化なのですね。
少し若い職人グループではクルト♪めぐちゃん(聖海由侑)に広い視野と先を見通す賢さがありました。未来の工場長かも。
才能ある若者が階級や因習にとらわれず力を発揮できるようになっていくのも世界が中世から抜け出し市民の時代となってきた証です。
なんとなくミハエルとクルトって兄弟のような気がするんですが。どうなんでしょう?
酔っ払ったミハエルをしっかり者のクルトが連れて帰ってました。
ここにも明るくてイケイケドンドンな兄と頭脳明晰な弟がいる!って微笑ましく思っちゃった。職人版ハインドリッヒとフランツのようでとても面白かったわ。
ちょっとした一言のセリフでも上手かったのが反発する職人♪あっさん(麻斗海伶)、子供を奉公に出さなければならない農民♪りりちゃん(琴羽りり)
庶民の日常をきめ細やかに体現していて、こういう良い芝居が世界観を観客に届けるためにとても大切なのよ。
庶民と言えるかどうかわかりませんが夢人達も印象に残りました。
場面転換の折々に現れてちょっとした格言めいたセリフと美しい歌声を残し去っていきます。
それ故につい夢見心地になっちゃって歌った内容はサラリと流れてしまったのだけれど、特に物語の進行的なことは言ってなかったよね?
かつて柴田侑宏先生がコーラスで物語を進めていくコロスという演出手法を編み出したのですが、それとはまた違った、なんとも不思議な存在でした。
ロマなどの流浪の民なのか移民なのか。信じる宗教も違っていたのかもしれません。
異端の存在ゆえに迫害され魔女と呼ばれた女たちは中世の産物であり、現代にも残る他者への無理解と分断の象徴でもあります。
メロディちゃん(音色唯)が時折見せた厳しい表情がすごく印象的だったな。
クラシカルな雰囲気を持つメロディちゃんなればこそ、中世的な厳しさが際立っていたように感じられました。
夢人♪けいこさん(美穂圭子)が実はアントン♪あがち(縣千)の母アーニャであるとの種明かしがあり夢人は物語から消えます。
けいこさんの慈愛に満ち溢れた歌声とその涙を見たらぐっときて、母として成仏したのね~みたいな雰囲気になっちゃったけれど。まぁそう感じるのは日本人的感覚だわね。
ここは近代化の訪れとともに魔女の存在が消えてなくなったことを表してるのかなぁ?
もしかしたら今の世界が直面している分断が解決していくことへの祈りという意味もあったのかも。そのあたりは謎ですが…。
本当にたくさんのエピソードや思想が詰め込まれた「ライラックの夢路」
そのすべてを破綻なく描いて回収し、カタルシスが感じられるラストまで持っていくというのは脚本演出に相当高度な技が必要になってくるかと思います。
そういった面ではちょっと惜しいなと思うところはありましたが、大好きなディートリンデをはじめとして登場するキャラクターはすべて愛おしく、心に残る作品でした。
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