スカステ視聴記録
デ・ソウルの手下に
ヴァレンチノが徹底的に痛めつけられるシーン。
新人演出家のデビュー作、おそらく予算が限られていたであろう初演では場末の酒場のセットでの芝居だった。
再演ではトップの退団バウ公演、予算も潤沢だったのか豪華な高級クラブになっていた。
そして傷めつけるのが芝居ではなくセクシーなダンスナンバーになっていた。
でも私は初演の時の簡素なセットでの芝居が今でも忘れられない。
上手側が安酒場のカウンター、なにもない下手側の暗がりが酒場の裏という設定だったと思う。
初演のデ・ソウルはふてぶてしい面構えが印象的だったダンサーの、りえさん(名月かなで)
酒場の裏手で手下がヴァレンチノをボコボコにしている時平然とカウンターに座り、ビビりながら注文を聞くバーテンにどすの効いた冷たい声でひとこと
「キャービア」と答えるのだ。
こんな場末の酒場にそんな高級食材などあろうはずもなく恐怖でどうすればいいかわからずに固まるバーテンにむかってダメ押しをするように
「キャビアだよ。キャービア」と平然と答えるデ・ソウル。
いやぁ~怖かった~。
本当に背筋が凍るほど恐ろしかったよ~。
映画スターのヴァレンチノなる自分がいる華やかな世界とは正反対の現実のルディーが今いる、すさんだ場末の裏町。
ぼろ切れのようになったルディーの姿と暗い心をそのまま写しとったような冷たく乾いたシーンだった。
そして乞食から奪ったオレンジを握りしめ再び歌う慟哭の「アランチャ」
やがて登り始めた朝日の中で全てを失うことで虚飾の衣を脱ぎ捨てたヴァレンチノ、いや、ルディーが本当の自分を取り戻していく。
ここは素晴らしい名場面だった。
再演のダンスもとても迫力があり、ダルマ衣装の娘役は色っぽいし、スーツ姿の男役はカッコいいし。
エンターテイメントとしても文句はないダンスシーンではあるのだけれど・・・
でも、この芝居の主題を考えればダンスに自分の気持ちを持って行かれたくはなかったかな~。
もちろんそんな華麗なシーンを挟んでいても再演のカリンチョ(杜けあき)、再々演のゆーひさん(大空祐飛)には観客の気持ちをルディーの気持ちに引き込むだけの力はあったのだけれども。
やっぱり初演の演出の流れの美しさと完成度は今でも忘れがたいものがあります。
・・・みゆさんデ・ソウル(海峡ひろき)の「キャービア」を聞きたかったな~。
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